ふたり暮らし

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妄想が現実になったお話【愛車】

ふたり暮らし。妄想が現実になったお話【愛車】

CMでひとめぼれした車

私がまだ車の免許を取るずっと前、テレビで日産マーチのCMを観て、そのお洒落で可愛らしい姿にひとめぼれしてしまった。恋とマシンガンの曲に乗せて流れる「フレンドリー♪ NEWマーチ♪」というフレーズのCMを、覚えている方も多いのではないだろうか。

 

免許を取る予定はまったくなかったけれど、いつか絶対にあの車に乗りたい!と憧れていた。

 

お手頃な価格とその見た目の可愛さで、マーチは当時とっても人気があった。私が注目していたから余計にそう感じただけかもしれないけれど、街中でマーチを見かけない日は1日もなかったように思う。あっちにもマーチ、こっちにもマーチ、なんなら当時の旧型マーチもまだちらほら見かけるくらい、道路はマーチだらけだった。

 

私があまりにもマーチの話をするものだから、両親はうるさがり、「さっさと免許を取って、自分で買いなさい」と事ある毎に言われるようになってしまっていた。笑
(当時、私は二十歳を過ぎていたくせに、どこへ行くにも親に送り迎えをさせていたのである。)

免許も取る前から、私は毎日のようにマーチを運転する自分の姿を妄想しており、車の色も自分が好きな色で勝手に考えていた。それは私が自分に一番似合うと思っていた色だった。

 

生産終了間際に飛び込みで買った愛車

25歳の時にようやく免許を取り、そこからしばらくは義父のお下がりの車を使わせてもらっていた。そしてもうすぐ26歳になるという時、新型マーチが出るという情報が営業さん(実家の車も日産だったので)から入り、「運転にもだいぶ慣れたし、そろそろマーチを買うか!」とついに念願のマーチを手に入れることにしたのである。

 

ディーラーに行くと、顔見知りの営業さんがにこにこしながらやってきて、「お嬢さん、ついに買いますか!」と声をかけてくださった。私のマーチ愛は、両親から営業さんにまで伝わっていたらしい。笑

 

席に着くと、マーチのパンフレットがずらっと並べられ、そのほとんどが翌月から販売開始という、新型マーチのパンフレットだった。約8年ぶりにデザインが一新されるとのことで、そこには私の大好きな可愛いフォルムのマーチはいなかった。
(新型が好きじゃないというわけではない。)

 

私が、「これじゃなくて今までのと同じマーチが欲しいんです」と訴えると、営業さんは苦笑いしながら、「はい。そうおっしゃるだろうと思ってました。でも一応、社としては新型をおすすめしろと言われてまして…」とおっしゃり、二人で笑った。

 

「現行のデザインは今月で生産終了となります。人気車種なので当分の間は中古市場でも簡単に手に入りますが、新車でとなるとこれが最後のチャンスです。本当に良かったですね!」

 

「新型はリリースされてから何年間かはリコール案件が多いものなのですが、生産終了間近のモデルは、そういった不具合を何度も改良してリリースされているので、不具合もなく、一番快適に乗っていただけると思います。いい時期を選択されましたね」

 

などと言ってくださり、とても嬉しかった。その方のおっしゃっていた通り、私のマーチは購入以来、一度の不具合もなく、今でも元気に走ってくれている。

 

勝手に思い描いていた色があった

「色はお決まりですか?」と訊かれたので、私は脳内で勝手に想像していた色を伝えようと、「ええと…茶色というか、チョコレート色というか…」と言うと、「チョコレートは現行モデルのラインナップにはないんですよ。結構人気だったんですけどねー」と言われ、一瞬とてもがっかりした。

 

ところが、テーブルに広げられた色見本の中に、私が脳内で思い浮かべていたのとまったく同じ色があったのである。思わず、「これこれ!これです!私が夢見てたやつ!」と興奮してカタログを指差してしまった。笑

 

それは「フランボワーズレッド」という色だった。初めて聞く色だ。チェリーのような赤みを感じる素敵なブラウンで、この色がラインナップに加わったのは、この最終モデルだけだったのだという。

 

値引き交渉はしなかった

いくら理想の車とはいえ、価格が高過ぎたら考え物なのだけれど、当時マーチは、日産の中でもっともお手頃プライスな車種だった。それまで安いとされていた軽自動車に様々な性能が搭載され始めた頃で、マーチは当時の軽自動車よりもお安かったのである。

 

お安いとはいっても、100万を超えるお買い物は人生で初めてだ。私は自分が立派な大人になった気分だった。嬉しくて、高校時代の友達に「車買ったんだ~」と報告すると、へっぽこな私を知っているその友人は、「値引き交渉ちゃんとできた?」と訊いてきた。

 

「値引き交渉?なんで?」と尋ねる私に、友人は呆れながら、「家と車と家電は値引き交渉するのが普通なんだよ。営業の言い値で買うなんてディーラーの思うつぼだよ」と教えてくれたのである。

 

えぇ…そうなんだ…言い値で買っちゃったよ…

 

とその時は落ち込んだけれど、家に帰ってからその話を夫にすると、

 

「これから10年以上乗る車なんだし、ずっと欲しかったやつなんでしょ?高いお金を出してでも欲しかったものを迎えられたんだから、それでよかったと思うよ。大切に乗ろうね」

 

と言ってくれて心が救われた。夫のこういうところが本当に好きだといつも思う。

 

愛車を大切に思う気持ちをわかってくれる人

晴れて私の家族になったマーチ。もうすぐうちに来て15年だ。あの時の担当営業さんはとうの昔に転勤されていて、今ではディーラーに行くたびに新車を勧められるようになってしまった。

 

車検と点検はずっとディーラーでお願いしていたのだけれど、新車を勧められるのが嫌で、ここ数年はガソリンスタンドでメンテナンスをお願いしている。昨年、車検が終わってスタンドに受け取りに行くと、担当者の方が、「ヘッドライト、気合をいれてピッカピカにしておきましたよ。まるで新車みたいでしょう!」とおっしゃるので見てみたら、本当にピッカピカだった。黄色く濁っていた愛車の瞳が、透明で澄んだ瞳に変わっていたのだ。すごく嬉しかった。

 

その方は、「昔ほど街中でこのマーチを見かけることもなくなりましたね。すごく人気のあった車種ですよね。これからも大切にしてあげてくださいね」と言ってくださり、ちょっと泣いた。

 

時代の変化はさびしいけれど、まだまだこれからも大切に乗り続けたい。春にはタイヤを買い替えたいので、これからしばらくは節約していかなければ。