ふたり暮らし

明日は明日の風が吹く

大人になっていくこと。

ふたり暮らし。大人になっていくこと。

生徒さんたちの思い出

私は助教師時代を含め、15年間バレエ教師をしていた。15年の間、たくさんの生徒さんたちを見送ってきた。小さい頃から通ってきてくれていた子が、受験や進学で教室をやめていくのを見送るのは、その成長が嬉しくもあり、非常にさみしくもあった。

 

女の子の10代の成長は速い。ついこの前までわがままで小さな子どもだったのに、いつの間にか私より背が伸びていて、いつの間にか聞き分けが良くなっていて、いつの間にか心が大人になっている。

 

おしゃべりで自分勝手で無鉄砲な子どもたちに、毎日あんなに振り回されていたのに。泣き虫で甘えん坊で心配が尽きない子どもたちに、発表会当日まで手を煩わされていたのに。

 

気がつくとすっかりお姉さんになったみんなが、頼りない私のフォローをしてくれるようになっていた。静かに自分自身と向き合って、立派に舞台に立てるようになっていた。

 

そんな眩しい姿を、私はいつも舞台袖から涙をこらえて見ていた。この子たちは本当に私が教えた生徒だろうか?こんなに素敵に踊れるなんて知らなかった。いつの間にこんなに上達したのだろう?

 

前日まで、なんなら当日の朝のリハーサルまで、私はみんなをああだこうだと指導していたにも関わらず、舞台に立つ生徒さんたちの姿は、私なんて全然必要なかったと思えるくらい、自立し、凛としていた。

 

 

高校生から大人の女性へ

夫の転勤で今の場所へ来て丸4年が経つ。だから今の職場で働き始めてもうすぐ4年だ。

 

私が入った時、高校生だったバイトの子たちが、来年大学を卒業する。バイトとしては彼女たちのほうが先輩なので、普段はこんなふうに思うことはないのだけれど、最近、ふとした瞬間に、彼女たちがかつての生徒さんたちの姿と重なって見えることがある。

 

先日、業務上の講習があり、閉店後に一緒に食事をした。講習後の食事会や小規模な飲み会は時々あるのだけれど、この日はたまたま全員が女の子で、学生だった。

 

私服姿で楽しそうにはしゃぐみんなを見ていたら、ふっとレッスン室で生徒さんたちのおしゃべりに囲まれていた頃の感覚を思い出した。

 

私の記憶の中の生徒さんたちは、バイトの子たちより少し年下だったけれど、女子トークのノリはあまり変わらない。これは私の歳になっても同じなので、古今東西、どの年代でも女性が集まれば雰囲気は同じなのかもしれない。

 

彼女たちをかつての生徒さんたちの姿と重ね合わせながら、私は親でも先生でもましてや先輩ですらないのに、「大人になったなぁ…」と感慨深い気持ちになってしまった。

 

高校生だった女の子が大人の女性になっていく4年間。とっても貴重で尊い時間だと思う。彼女たちのご両親もきっと、忙しい毎日の中でふと娘を見て、嬉しくも寂しい気持ちになることがあるのだろうなと思った。

 

引越したくはないけれど離れたい

同じ場所に4年。ちょっと長過ぎる気もする。今のお店は職場の雰囲気がいいので、卒業したあとでも食事に来てくれる子が多い。特にお正月は、地方から帰省してきた子たちが集まって一緒に食事に来てくれる。

 

みんな私が転勤族ということを知っているので、会う度に「あ、よかった!葉月さんまだいたー」と言ってくれるのだけれど、会う度に大人になっていく彼ら彼女たちを見るのはけっこう切ない。

 

私はたくさんの生徒さんたちを見送ってきたけれど、別れに慣れているわけではない。毎回毎回さみしい思いをしていた。3歳から通ってくれていた生徒さんが高校進学を機に辞めて行った時などは、ひと晩泣き明かしたこともある。

 

だから私は、本当は見送るより見送られる側でいたい。転勤族というのは、そういう意味でも私に合っているのだ。

 

今の場所はとても暮らしやすいし、気に入っているけれど、ここに留まりたい気持ちと早く新天地に行きたい気持ちは半々くらい。

 

とはいえ… なんだかんだ言って、あと5年くらいはここにいるような気もしている。