ふたり暮らし

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【海街diary】なんでもない日常を大切に拾い上げた美しい物語

ふたり暮らし。【海街diary】なんでもない日常を大切に拾い上げた美しい物語。

何でもない日常を描く映画

私は映画でも小説でも、なんでもない日常を丁寧に描いた作品が大好きである。10代の頃はハラハラドキドキするような話題作ばかりを好んで観ていたけれど、いつの間にかそういうものを観なくなった。

 

そんな私の今の好みドンピシャの映画、海街diary。

 

これまでにアマプラで確実に10回以上は観ているこの映画。プライム対象じゃなくなったらDVDを買おうと思っているのに、ずーっとプライムのままなので、大好きな作品なのに未だ手元には持っていない。
(2024年2月現在)

 

この映画の何がそんなに好きなのか、上手く言葉では言い表せないのだけれど、「日常のなんでもないワンシーンを大切に拾い上げて繋げてみれば、こんなに美しい物語ができますよ~」ということに気づかせてくれる、大人向けの映画なのだ。個人的には目を離せる瞬間が一瞬もない映画である。

 

原作も読んだけれど、そちらはどちらかと言うと若者向けだと思う。映画では、原作のごくごく最初の部分だけを膨らませて作られていて、それがすごくいい。あの漫画を読んで、この部分を作品にしようと考えた是枝監督の感性がすごい。

 

人それぞれ好きなシーンがいろいろありそうな映画だけれど、私がとくに好きなのは、映画の序盤に綾瀬はるかさん演じる幸が、初めて会った母違いの妹すずに「一緒に暮らさない?」と誘うシーンだ。

 

この時の広瀬すずさんはまだ若く、ほかのキャストに比べると演技も未熟な感じがするのだけれど(でも、そのぎこちなさがこの映画ではプラスに働いている)、このシーンの演技はとても胸に迫ってくるものがあった。

 

父親の死によって縁もゆかりもない土地で孤独になってしまった女の子が、不安に押し潰されそうになりながらも気丈に振る舞い、初めて会えた「肉親」である姉たちとも別れなければいけない心細い場面。そこに突然差し伸べられた「家族の手」。予想もしていなかったことへの驚き、戸惑い、そして心の奥底から湧いてくるわずかな希望と安堵の気持ち。

 

幸たちが電車に乗ってから扉が閉まるまでの短い時間で、すずの心の動きが痛いほど伝わってくる。すずが「行きます!」と言った瞬間に扉が閉まり、動き出した電車の向こうでゴクリとつばを飲み込むすず。ひとりで不安だったよね、心配だったよね、怖かったよね。でもよかったね。やっと安心して家族と暮らせるね。と、毎回ここで涙が出てきてしまう。

 

豪華すぎるキャスト

主演女優4名の豪華さもさることながら、この映画は脇を固める俳優陣も超豪華だ。ひとりひとりのシーンはそれほど長くない(ほんのワンシーンの人もいる)のに、それぞれ存在感がすごい。ひとつひとつのシーンにものすごく思いを込めて演じているのが伝わってくる。

 

その中でも、大竹しのぶさんの初登場シーンはとくに素晴らしい。幸たちの母親としての頼りなさ、いいかげんさ、だらしなさなど、役柄上の彼女の欠点すべてが最初の小走りに表れていて、観ているだけで「なんだこの母親。むかつくな」とまんまと思わせられてしまう。あんな風に登場できるなんて、大竹しのぶさんはほんとに天才だ。笑

 

映画のテーマ

是枝監督は、この映画のテーマのひとつに「死」を挙げている。見方によって様々なテーマが浮かび上がってくる作品だけれど、私の中のテーマは今のところ「本当の家族になっていく過程」だ。

 

映画の後半、お風呂あがりのすずがバスタオルを広げて扇風機に当たり、幸に叱られる場面。漫画の中では主軸はほかにあり、この二人のやり取りはコマの中の背景の一部として、見逃しそうなほどさらっと描かれている。

 

これが映画では、ようやく本当の家族になりつつある幸とすずとの、とても印象的なシーンに作られていて、じーーーーんとする。

 

生まれて初めて会った姉から、突然「一緒に暮らさない?」と誘われ、自分の父親が、かつて自分以外の家族と暮らしていた街で新たな人生を始めたすず。一緒に暮らし始めてからも、自分の居場所を探してずっと気を張って生活している妹を、歯がゆい思いで見守り続けてきた幸。

 

ふたりの関係性の変化を感じさせ、序盤の駅でのシーンとの対比がとても見事だなと思う。

 

コミカルなシーンの多い漫画を、こんなふうに静かな物語に仕上げるには、それぞれのキャラクターの内面に対する理解度が深くないと難しい。監督が原作を何度も読みこんでいることが伝わってくる作品だ。

 

三女のチカが恋人に対して密かに抱いている不安な気持ちなどは、女性なら多くの人が共感できると思うのだけれど、ほんの少しのシーンでそれを表現する監督の手腕と夏帆さんの演技に脱帽である。

 

きっと年齢を重ねるとともに、感じるテーマが変わってくるのだろう。これからもずっと観たい。やっぱりDVDを買おうと思う。