ふたり暮らし

明日は明日の風が吹く

お店とお客様から学んだこと

ふたり暮らし。お店とお客様から学んだこと。

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泣いてくださった常連さん

週に何度も来店され、よくお菓子や果物の差し入れをしてくださるお客様がいる。店員が個人的にお礼をするのはどうかと思ったが、新人の頃からとても良くしていただいたし、可愛がってくださったので、今月で店を辞めることをお伝えし、お礼を言った。そうしたら、なんと涙を浮かべて残念がってくださった。

 

「今まで本当にありがとうね」と言って私の腕をさすりながら、悲しそうなお顔で「会えてよかった…」とまで言ってくださった。老齢の女性なので、人との別れというものに私よりも感じることがあるのだろう。こちらももらい泣きしそうになってしまった。

 

常連さんの中には、ぶっちゃけ「もう二度と会いたくないわー」と思うような人もいるのだが、会えなくなるのが残念に感じるお客様も多くいる。今のお店はお客様ひとりひとりにかける接客時間が長いため、いろんなお話を聞かせてくださる方もいて、この店で長く働いたことで、仕事に対する姿勢というか気の持ちようが昔と変わったような気がする。
(昔はもっと割り切った接客をしていた。)

 

マスク接客の恩恵

コロナ禍でマスク接客が当たり前の世の中になったことで、「表情が見えない分、声のトーンに気をつけるように」と指導されるようになった。ちょっとでも暗い声だったり強い口調に聞こえてしまったりすると、お客様は店員を怖く感じ、雑な接客を受けているように感じてしまうから、と。

 

ある日、仲の良さそうな老齢の男性二人組が来店した。とても感じのいい方たちで、私も最初から普通に笑顔で接客しているつもりだった。ところが何度目かのオーダーをうかがっていた時、ひとりの方が冗談を言い、お連れの方につられて私も笑ってしまった。するとそのお二人に、「お姉ちゃん、そういう顔がいいな!笑」「笑ってくれるとホッとするなぁ。笑」などと口々に言われ、マスク越しの自分の表情がお客様にキツイ印象を与えていたのだと痛感した。

 

私は顔立ちがキツめのため、学生時代からなるべく笑顔で、柔らかい表情を心がけて人と接するように意識していた。でも、マスクをしていたらキツく感じさせてしまう顔だったのだ。お二人の言葉でそれに気づくことができ、「声のトーンだけじゃなく、目の表情にも気をつけよう」と思えたことは、当時も今も感謝している。

 

「すみませーん」と言わせない接客を

今のお店はサービス料をいただくほどの高級店というわけではない。でも基本的に5000円以上のコース料理がメインのお店で、店構えや店内の雰囲気も高級感がある。一品料理やお手頃価格のセットメニューもあるが、そもそもファミレスとは客層も違い、お客様は店員に価格相応の接客を求めてくる。

 

先日、「サービス料をとっていないお店では、店員の懇切丁寧なサービスを求めないでほしい」的な記事を書いたが、まあ値段だけで割り切って考えられないところが、接客業の面白さややり甲斐を感じる部分でもあるのは否めない。

asukaze827.hatenablog.com


今のお店では、「お客様に『すみませーん』と言わせない接客をしろ(呼ばれる前に気づけ)」と指導されていて、質の高いサービスを提供するために敢えて呼び出しボタンを設置していない。それまではカジュアルなお店でばかり働いてきたため、慣れるまでは苦労したし、クレームもたくさん頂戴した。でも、今ではお客様が望んでいることを先回りして対応できるようになり、感謝の言葉をいただく機会も増えた。

 

自分の心遣いが相手に伝わり、そのことについて感謝された時、「おもてなしというのはこういうことなんだ」と実感する。接客というのは一方方向ではなく、相互コミュニケーションなのだ。いくら心を込めて接客したつもりでも、お客様に「心のこもった接客だ」と思ってもらえなければ単なる自己満だ。店員がお客様のニーズを感じ取り、お客様が「店員さんにニーズを感じ取ってもらえた」と思うことで、初めておもてなしは成立する。

 

この店のやり方に、「パート(バイト)に多くを求めすぎじゃない?」と最初は思っていたが、今ではいい勉強をさせてもらえたな、と思っている。次の職場でもこの経験を活かして働きたい。

 

いろいろなお客様

近所になにか関連施設があるのか、この地域では身体障がい者の方をとてもよく見かける。介助者がついていたり、ひとりで車椅子で移動していたり、傍目にはわからないけれどヘルプマークをつけていたりといろいろな人がいて、お店にもそういった方々がよく来店される。

 

車椅子で介助者がいないお客様を見ると、「大丈夫かな?」と心配になるが、ご本人にとってはそれが日常だし、他人に心配だけされてもありがたくも何ともないのだろう。たくましく生きているんだな…と感じる。

 

この店で働くまで、私は身体障がい者の人に対してどう接したらいいのか知らなかった。だから街で見かけてもとくに気にしていなかった。でもここで働くようになって、店長や先輩たちの接し方を見て学べたため、今はごく自然にそういう方たちのニーズに応えることができるようになったと思う。子育て経験のある人のほうが若いママのニーズを把握することができるように、人は身近なところで経験がないことは、行動に移すことができないんだなと実感した。

 

たまに、ベビーカーの赤ちゃん連れのご家族も来店する。大きなベビーカーはこちらでお預かりする決まりなので入り口で渡してもらうのだが、お父さんがベビーカーから赤ちゃんを抱き上げた途端、ぶら下げていた荷物の重さでベビーカーがひっくり返るという状況を何度か見た。横にいたお母さんはたいてい、「ねえ!荷物先に取らないと!」と怒っていて、見ているこっちも内心呆れてしまう。

 

「お父さん、普段奥様のやり方を見てないのね。そして奥様のニーズもわかってないのね。赤ちゃんじゃなくてあなたが荷物のほうを持てばいいんだよ」とつい口を出したくなるが、もちろん黙っている。

 

何事も、見て学ぶという経験は誰でもいつでもできることじゃない。身近でそういう経験ができる機会は貴重なんだなと改めて思うし、学ぶ姿勢を失わないようにしようと思う。
(件のお父さんは奥様からもっと学べ!と思う。)