ふたり暮らし

明日は明日の風が吹く

肥えた舌

ふたり暮らし。肥えた舌。

お肉を焼いたら…

フランス人夫と日本人妻のあるある喧嘩ネタに、こんなのがあるらしい。
(ほんとかどうかは知らないけれど…)

夕食のステーキを焼いたフライパンを洗い始めた妻。

「やめろ!なんてことをするんだ!!」

「なによ!熱いうちに洗わないと汚れが落ちなくなるでしょ!」

「肉から出た脂を流すなんて頭がおかしいんじゃないか!?」

「流したりしてないわよ!ちゃんと紙で拭き取って捨てたわよ!」

「そういう問題じゃない!"ちゃんと"捨てただと!?きみは正気か!?」

「じゃあこれからはあなたがフライパン洗えばいいじゃない!」

 

聞くところによると、フランス人は、お肉を焼いた後のフライパンに残った脂ほど美味しいものはないと思っているのだそう。その脂に赤ワインや生クリームを足せば、どこのレストランにも負けない極上のソースになるのに、なんで日本人は残った脂を捨てるんだ!と、彼らから見たら正気の沙汰じゃないらしい。ちなみに、長ネギの青い部分を捨てたりしても、これと同様の喧嘩になるとか。

 

パート先の飲食店で、時々消費期限の近い大量のハンバーグを貰えることがある。わが家では「肉パ」と称して、一度にたくさん焼いて食べる。二人とも大食いなのだ。ワイン(カーニヴォバーボンバレルがあれば尚嬉しい)と一緒にお腹がぱんぱんになるまでハンバーグを平らげたら、その後は必ずあるものを作る。

 

それがリゾットだ。

 

低温に熱したオリーブオイルでにんにくを炒めたら、みじん切りにした玉ねぎを加える。玉ねぎに火が通ったらマッシュルームを加えて炒め、そこにトマト缶と水を入れる。ぐつぐつしてきたらごはんを投入し、フライパンに残った肉汁を温め直してから加える。適当に塩胡椒で味付けしたら、世にも美味しいリゾットのできあがりである。

 

肉汁の力で、ただのトマトリゾットがどこのレストランにも負けない死ぬほど美味しいリゾットに変わる。家族が多かったりして一度にたくさんのハンバーグやステーキを焼くおうちは、ぜひとも一度試してみてほしい。

 

大量の肉汁を惜しげもなく捨てる光景

肉汁の入った料理のおいしさを知ってしまってからというもの、職場で毎日のように目にする、「バットに残った肉汁をバケツに捨てる光景」から目が離せなくなってしまった。

 

ああ、一体ハンバーグ何キロ分の肉汁があのバケツの中にたまっているんだろう。あのバケツの代わりにわが家のタッパーを置いたらだめかなぁ…

割と高級なお店のお料理なので、お肉もいいものを使っている。ステーキももちろんおいしいが、ハンバーグもとってもおいしい。ハンバーグからあふれだす脂は透明で美しく、とってもいい匂いがする。あれを毎日毎日惜しげもなく捨てているなんて、もし冒頭のフランス人夫がそれを知ったら半狂乱になるんじゃないだろうか。

 

舌が肥えると弊害もある

先日、職場のバイトの子が、「ここの賄いを食べるようになってから、ファミレスのハンバーグとステーキがおいしく感じなくなった」と言っていた。よくわかる。お値段が全然違うので当たり前とはいえ、ファミレスのハンバーグは別物として考えないと食べられない。私はびっくりド〇キーのポテサラパケットディッシュが好きなのだけれど、あれは私の中ではハンバーグではなく、別のジャンルのお料理である。

 

ここに来る前に働いていたお店は個人店のイタリアンだった。そこではセモリナの生パスタを使っており、ソースも自家製で、パスタだけでなく、ピザもサイドメニューも、出すものすべてにこだわりのあるとっても美味しいお店だった。

 

そこのバイトの子も同じことを言っていた。
「もうファミレスでピザとパスタが食べられなくなった」と。

 

私はその時すでに30代半ばを過ぎていて、若いうちに散々ファミレスのお料理を堪能し尽くしたあとだった。今後ファミレスのごはんに物足りなさを感じるようになったとしても後悔はない年齢だ。

 

でもバイトの子達は高校生や大学生。その若さでそんなに舌が肥えてしまって、この先大丈夫?と心配になってしまう。友達とサイ〇リアとか行ける?笑

 

とはいえ、最初にいいものを知っておくのも大事

サイ〇リアで思い出したけれど、以前Twitterで「サイ〇リアのグラスワインが安くて美味しい」と話題になっていた。

 

私たち夫婦も早速試した。今までサイ〇リアでワインを飲もうと思ったことはなかったけれど、そうか、そんなに美味しいのか、知らなかった。と、わくわくしながら行った。

 

感想は、「一杯100円でこのクオリティなら、コンビニで2000円のワインを買って外すよりはマシ…かな…?」だった。
(※個人の感想です。)

 

まず、ファミレスなので仕方ないこととはいえ、プラスチックのグラスではそれだけで美味しさが半減する。そしてこれも仕方ないこととはいえ、キンキンに冷やされているとさらに半減する。いろいろなおつまみを手軽に楽しめる、という点でサイ〇リアはコスパもタイパもいいけれど、期待して飲むほどのものではないと思った。

 

21歳のバイトの子が、最近日本酒デビューをしたという。
「私、お酒って全然わかんなくて。でもその日本酒はすごく美味しく感じたんです」

 

それを聞いて私は言った。
「きっとすごくいいお酒だったんじゃない?」
「ああ、そうかもしれないです。ご馳走してくださった方が業界の偉い方だったので」
(その子は演劇関係の仕事をしている。)

 

昔、板前さんが言っていた言葉を思い出した。
「子どもに初めて食べさせるものは、新鮮ないいものを食べさせてやってほしい。やっすいチェーン店のウニなんて食わせたら、その子は一生ウニ嫌いになってしまうかもしれないぞ」

 

21歳のその子も、ワインがおいしいと聞いてサイ〇リアで飲んでみたという。でも、感想は「すっぱくて苦かった。ワインておいしくないなぁと思った」だったそう。

 

ワインの名誉のためにその誤解を解いておかねばと思い、私は言った。


「サイ〇リアのワインは、ワインが好きでよく飲む人が、『これで100円ならまぁまぁいいね』って意味で美味しいって言ってるだけで、初めて飲む人向けじゃないと思う。あれを飲んで『ワインってべつにおいしくないな』って判断をしないでほしい。美味しいワインは、たとえ初めて飲む人でも『よくわかんないけど妙に美味しく感じる』ぐらいは思うはずだから」

 

その子は「そうなんですね!今度はいいワインをごちそうしてもらいます!笑」と素直に言ってくれたのでホッとした。

 

私も日本酒デビューする時は、日本酒に詳しい人にアドバイスを仰いで、いいものをチョイスしようと心に誓った出来事だった。