ふたり暮らし

明日は明日の風が吹く

ひとつ、自信になるものを見つける

ふたり暮らし。ひとつ、自信になるものを見つける。

大変だった経験が自信になった

私がついていたバレエの先生は昔ながらの大変厳しい人で、生徒をほめて伸ばすタイプではなかった。毎日毎日、欠点を厳しく指摘され、ほかの子と比較され、否定され続けてきた。それは私だけでなく、どんなに才能のある上手な子でも同じで、そのおかげか、みんな根性だけはものすごくあった。

 

私は今でこそ、ゆとりを最優先にしてぐうたら頼りなく生きているけれど、現役時代はけっこうストイックな性格をしていた。

 

私の先生のセリフで一番恐ろしかったのは、「できたと思ったら帰っていいわよ」というやつだ。レッスン後の自習時間やコンクールの練習時間にそう言われ、できるまで居残って練習するわけだけれど、生徒たち自身の「できた」とするレベルが高すぎて、誰も帰ることができない。

 

20時に終わる通常レッスン後、22時半過ぎまで居残って練習し、教室の鍵を閉めるアシスタントの先生の「もういいかげんに帰ろうよ」という言葉で、ようやくみんな帰り支度を始める、という日々だった。

 

どこのお教室も同じだと思うけれど、ジュニア時代のレッスン生は本当に大変だ。厳しいレッスンと、筋トレと、ストレッチと、そしてダイエットの毎日。バレエが好きだったからがんばれたけれど、ほかのことでこれと同じ生活をやれと言われたら不可能だ。

 

でもこの大変だった経験が、今の私にとっては自信になっている。

 

ひとつでも自信があれば生きていける

誰かと比べてどうのではなく、自分が自分で「精一杯がんばった」と思えるような経験は、その後の人生でゆるぎない自信になる。私は教師になった時、そのことを子どもたちに伝えたいと思った。

 

バレエはグループレッスンなので、どうしても周囲と自分を比較してしまう。比較すること自体はメリットもあるのだけれど、自信を持ちにくい子にとっては逆効果になることが多い。

 

個人で演奏するピアノなどとは違い、生徒さん本人にも、そして親御さんにはさらに理解されにくいことのひとつが、「発表会の配役」だ。私は年功序列や入会順などで配役や立ち位置を決めることは一切していなかったので、発表会の配役を発表するたびに、それはそれはもう、様々な不満や意見をぶつけられた。

 

親御さんの不満は置いておいて、子どもたちが配役を見て自分に自信がなくなってしまった時・納得がいかなかった時、逆に自信を持った時・鼻高々な気持ちになった時、その時に共通していることは、短期的な目線になってしまっているということだ。

 

ほとんどの先生がそうだと思うけれど、発表会の配役というのは、単純に技術的なもの以外にも様々な要素を絡め合わせて決定する。今この時のその子だけでなく、数カ月先・数年先のその子のことを考えてそれぞれの役につけているのだ。

 

街中のお教室の発表会というのは、お客様がお金を払って観に来るプロの舞台とは違い、習っている生徒さん本人のためのものである。発表会を通して、ひとりひとりが成長してくれなければやる意味がない。だから、その子の将来性や教師からその子への個人的な願いなども込めて役を考えている。

 

生徒さんがやるべきことは、先生の評価や周囲との差を気にすることではなく、自分が自分に自信を持って「がんばった」と言えるようにすることだ。それさえできれば、ちゃんと自分に自信を持てるようになる。

 

自分の世界で生きてほしい

世の中、なにごとも上を見たらきりがない。自分なんかよりできる人、上手な人、才能ある人なんて星の数ほどいる。自分の外の世界で自分を見てばかりいたら、真面目な子ほど病んでいく。

 

でも、自分の世界基準で生きていれば、自分に自信が持てるようになる。教室の中では上手なほうじゃなかったとしても、自分が精一杯がんばったのであれば、その子はその子の世界の中で十分にすごい人だ。

 

人に評価を求めるんじゃなく、自分で自分をちゃんと評価することがその後の人生においてとても大事だな、と思う。なにかひとつでもゆるぎない自信の持てるものがあれば、人はつらい状況でも生きていける。