ふたり暮らし。念願のインド料理。
食に恵まれなかった街
以前住んでいた街は、「食」に関してだけいえばまったく恵まれていない街だった。若者が多い街だったせいか、映えに全振りしているような店が多く、味は二の次三の次というお店ばかりだった。当然入れ替わりも激しく、リーズナブルでおいしいお店というのはほとんどなかった。
住んでいた5年の間に散々食べ歩いたが、リピートしたいと思えるお店は4〜5店だけ。4年目を迎えたあたりからは諦めの気持ちが大きくなり、もう新規開拓をしなくなっていた。
それに比べると今住んでいる街はおいしいお店がたくさんある。昔この街に住んでいた時に行きつけだったお店のほとんどが今も営業しており、昔と変わらない味を提供してくれている。
以前の街で、私たちはインド料理の店を何店舗も外していた。本格スパイスのきいたおいしいカレーが食べたい!と思っても、なんだかぼやけた味だったり、スパイスではなく化学調味料の味がしたり、カルピスのようなうっすいラッシーが出てきたりして、いつもがっかりしていた。
(それでいて値段だけは一丁前なのだ。怒)
今の街に昔住んでいた時、すごくおいしいインド料理の店があり、よく行っていた。古い佇まいながらも、テーブルや椅子の背は黒光りするほどに磨き込まれていて、日本語の上手な店主さんと、店主さんの弟さんと、日本人の奥様とで切り盛りしていた。
今回再びこの街にきて、真っ先にその店のことを思い出した。「どうか今もあの場所にありますように…!」と祈りながらその店に向かうと、果たしてそこにそのお店はまだあった。もう飛び上がるほど嬉しかった。これでやっとおいしいインド料理が食べられる!
そんなわけで、先日、満を持してそのインド料理のお店に行ってきたのである。
吸い込みにくさこそ本物の証
なんと店主さんは私たちのことを覚えていてくださり、再訪をとても喜んでくださった。ナントカというじゃがいもの入った三角形の揚げ物までサービスしてくれた。
いつも通り、夫はインドビール、私はラッシーで乾杯。ストローでラッシーを吸うと、グッと重くつまる。そうこれこれ!この吸い込みにくさこそ、本物のラッシーの証なのだ。ストローでスィーっと飲めるラッシーなんてラッシーじゃない。ただのカルピスだ。
ラッシーは立て続けに飲むとお腹にたまるが、消化を促進してくれる働きがあるので、しばらくするとお腹がこなれてくる。だからどんどん食べられる。
カレー4種と、自家製ドレッシングのサラダと、シシカバブと、じゃがいものスパイス炒めと、チキンの辛いやつと、炊き込みご飯みたいなやつと、特大のナンをそれぞれ食べた。その合間にビールもラッシーもおかわりしまくった。
自家製のシャーベットまですべて平らげ、私たちは心からの満足感を得た。
おいしいお店は長く続く
食事を開始してすぐ、背後でピロリンピロリンと職場で聞き慣れている音がした。Uberの注文が入ったのだ。このお店もUberに対応するようになったのかと思い、コロナ禍の時はどうしていたのか訊いてみた。
コロナ禍当時、お店はやはり存続の危機だったそうだ。閉めることも真剣に考えたそう。でもなんとか踏みとどまり、今はまた以前のような活気が戻ってきたとのこと。実際その日も、私たちが食事を終える19時頃にはお店の中はほぼ満席で、奥様もバイトの女の子(娘さん?)も走り回っていた。
本当においしいお店は長く続く。だってみんな、心のこもったおいしいごはんが大好きだから。
このお店に来れるというだけでも、この街に帰ってきた甲斐がある。次の引越しまで何年あるかわからないが、後悔のないように通ってこようと思う。