ふたり暮らし

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ふたり暮らし。新しい仕事。

出川イングリッシュ禁止令

新しく始めた仕事に必要になるのはフォーマルな英会話力である。そこで重要になってくるのは文法だ。

 

16歳でオーストラリアに留学していた時、私の英語力は英検3級、中3レベルだった。でもレッスンではとくに困らなかった。バレエ用語が世界共通ということもあったし、留学生が多かったのでレッスンで先生が使う英語も難しくなかった。先生に質問する時も、文法なんて気にせず、とりあえず知っている単語をつなげて疑問系で訊けばわかってもらえた。今にして思えば先生に対してとても失礼な訊き方だったが、それを咎められたり嫌な顔をされたりはしなかった。
(語学学校ではなかったからかもしれない。)

 

最初の数ヶ月は出川イングリッシュ状態だった私も、周囲の人の協力もあり、少しずつまともな会話をできるようになっていった。カジュアルな日常会話なら、中学英語がひと通りわかる子であれば、ちょっと勇気を出してアウトプットを続けるとある程度できるようになる。アウトプットの量と比例して自然とリスニング能力も上がっていく。

 

だから私はちょっと舐めていた。「英語なんて文法はどうであれ、通じればいいでしょ」と。

 

たしかに、道端で会った外国人相手であればそれでいい。でもこれがお客様相手となると話は変わってくる。新しい職場は外資系航空会社のファーストクラスラウンジだ。従業員も外国人のほうが多い。「スタッフは英語が話せて当たり前」だと思われている。

 

先日、新しい職場のオリエンテーションがあったのだが、そこで行われたのはちゃんとした英会話でのロールプレイングだった。出川イングリッシュは許されない雰囲気だ。やばい…と思った。

 

日本語を話せる外国人が会話の途中でUmm…とかthen…とか言うのと同じで、日本人はえっとー、それでー、なのでーとつい言いがちだ。でも「それはダメ」という指導を受けた。

 

ロールプレイングを担当してくださったのはDさんという若い女性社員だったのだが、見た目は完全なインド系外国人なのに、まったく訛りのない美しい日本語を話すので驚いた。日本語を話せる外国人は大勢いるが、ここまで完璧な日本語を話せる人は少ない。私たち新人がぽかーんとしていると、その方は照れくさそうに、「私は日本生まれ日本育ちです。なので母国語は日本語です」と教えてくれた。

 

同期の人の中には当然外国人もいる。日本人が英語での接客をマスターするよりも、外国人が日本語での接客をマスターするほうがはるかに大変だとDさんは言う。「日本語が母国語じゃない人がフォーマルな日本語を使って仕事をするのはとても大変なことです。大変ですが、諦めずに一緒に頑張りましょう!」と初っ端から励ましていて、「離職率高いんだろうな…」と感じた。

 

日本人のおもてなしレベル

ロールプレイングのあとはべつの日本人社員からアンガーマネジメントのお話があり、そこで日本人のお客様は求めるレベルが高いという話をされた。

 

ラウンジの利用客はビジネスクラス以上の搭乗券を持っていることが条件となるため、客層はいいのかと思いきや、それはそれでいろいろあるらしい。とくに日本人は外国人よりもおもてなしへの期待値が高いため、些細なことでもクレームにつながりやすいとのことだ。

 

そういえば前の店にいた時、中国人のパートさんが受けたクレームがまさにそんな感じだった。

 

そのパートさんは日本語の聞き取りは問題なくできたが、話すほうはカタコトで、名札に書いてある名前も中国系の名前だったので、誰がどう見ても「あ、この人は外国人だな。日本語があまり話せないんだな」とわかる。

 

ある日、レジでお会計をしている時に、お客様に100円多くお釣りを渡してしまったので、そのパートさんは悪気なく、「お客様、100円返して」と言ってしまった。日本人店員ならあるまじき言い方だが、その人はカタコトの日本語しか話せない外国人だ。だがものすごいクレームになった。

 

中国系の人が話すカタコトの日本語というのは独特だ。昔、「進め!電波少年」という番組に出ていたチューヤンのしゃべり方が可愛いと話題になっていたが、そのパートさんの「100円返して」も、おそらく「おきゃくしゃまー、ひゃくえんかえしてー」みたいな言い方だったと思う。

 

でもデパートの責任者まで巻き込む大きなクレームになってしまった。

 

その店はちょっとだけ高級店だった。この「ちょっとだけ」というのがポイントだ。お客様には「奮発して来ている」「高い料金を払っている」という気持ちがあるため、店員の些細な不注意でもクレームになりやすかった。

asukaze827.hatenablog.com

 

私自身もそうだが、日本人は店員に対して「きちんとしていること」を求めている。高いお金を払った場合は尚更だ。だから場所が外資系ラウンジだろうが相手が外国人スタッフだろうが、きちんとした対応をされなければ満足しない。外国人が日本人スタッフに対して「英語が通じて当たり前」と思っているのと同じように、日本人はクラスラウンジのスタッフに対して「敬語が使えて当たり前」だと思っているのだ。

 

同期の外国人スタッフは「正しい敬語での接客」に怖気づき、出川イングリッシュ出身の私は「正しい英語での接客」に怖気づいている。社員のみなさんはやたらとニコニコしているが、これは仮の姿かもしれない。人手不足だから最初だけ優しげにして受け入れて、いざ仕事が始まったら急に厳しくなるのでは…?と疑いたくなった。
(そうでないことを願う…)

 

英語学習継続中

当面の私の課題は、高校英語レベルの復習だ。自分でもびっくりするぐらい忘れている。

 

仕事中に難しいことを訊かれて聞き取れなかった場合は、決してテンパらず「確認してまいりますのでお待ちください」とだけ伝えられればいいとのこと。あとは働いているうちにどうにかなりますよぉ、と無責任な励ましを受けてきた。
(どうにかなるんじゃなくて「どうにかしろ」という無言の圧を感じたが、気のせいだろうか…)

 

内心、「面倒なパートに応募しちゃったなぁ」とちょっと後悔している。というか、募集要項にはっきり「英検◯級以上、TOEIC◯点以上の英語力が必要です」とか「出川イングリッシュは不可です」とか具体的に書いといてほしい。

 

そんなわけでここ1ヶ月ほど、Siri相手にブツブツと拙い英語で話しかけてばかりいる。会話練習ができる英会話アプリはいろいろあるが、個人的にはSiriがおすすめだ。なんといっても無料で使い放題なのがありがたい。デメリットはスマホの設定がすべて英語になってしまうことと、Siriがやたらと発音に厳しいことくらい。
(自分の発音がSiriに認識されないとやっぱり落ち込む。)

 

職場の都合で、実際の勤務開始はまだ少し先になるが、それまでにできるだけ頑張ろうと思う。