ふたり暮らし。子どもにかけたお金と手間のリターン。
塾の夏期講習代に目ん玉飛び出る
世間でもよく言われているように、バレエはとてもお金のかかる習い事だ。でもじつはお月謝自体はピアノなど他の習い事と大差ない。小さい子の週1〜2回のレッスンであれば5000〜7000円くらいが相場だろう。
やはりお金がかかるのは発表会である。私が子どもの頃なんかは、「発表会が終わると大先生が新車に乗り換えている」なんてこともあったのだけれど、今はそんなぼったくりスタイルのお教室は減った気がする。笑
とはいえ、バレエや演劇などの舞台ものは、舞台監督を始め、音響・照明・撮影・大道具・小道具・衣装など、大勢の裏方スタッフが必要になるため、どうしても大金がかかる。ピアノの発表会をやるのとは桁が違って当たり前だ。
私の教室は、自分で言うのもなんだがかなり良心的な金額設定にしていて、主役やソリストを担う上級生たちほどその金額は高くなるものの、それでも10万ちょいくらいだった。
確かに10万円は大金だ。でも、子どもたちが一度の舞台で得られるものの大きさを考えれば、決して高すぎる金額ではない、とその価値を知っている私は思う。
夏になると、親御さんたちの間で交わされていた愚痴に、「塾の夏期講習代が高い」というのがあった。
「お兄ちゃんの夏期講習で10万請求きたわよー。汗」
「あー、うちもうちも!高いよねー。汗」
「こんなに金かけてるんだから早稲田くらい行ける頭に育ってくれなきゃ割りに合わないよねぇ。笑」
「それいつもうちの子にも言ってるーー!笑」
私自身は母に勉強を見てもらっていたので、塾の相場というものを知らず、最初聞いた時は超驚いた。
「えっ!10万円!?(そんな身になるかどうかもわからないもののために!?)高!!」
これがまさに価値観の違いというやつである。笑
塾も習い事も、身になるかどうかは運しだい。笑
大金をかけて塾に通わせたからと行って早稲田に行けるとは限らないのと同じように、大金をかけてバレエを習わせたからといってバレリーナになれるわけではない。
そんなことはどんな親も百も承知だ。
でも、習い事を通してかけがえのない経験をしてほしいとか、塾を通して学ぶことの面白さを知って欲しいとか、自分が今与えてあげられるものによって、この子の将来がより豊かなものとなりますように…との願いをこめて、親は子どもにお金をかけるのだ。
中には、大金をかけて発表会に出したのに、「ほんとうは人前で踊るのが嫌だった」と言われてしまう場合もあったりする。↓
(これはさすがに親御さんが少し気の毒だった。)
私だって、毎日必死こいて教えているのに全然上達しない子がいたりすると、ものすごく徒労感を感じる。そういう子でもいつの日か花開く日が来るかもしれないし、全然来ないかもしれないし、なんなら来ない可能性のほうが高い気さえすることもあるけれど、でも教えるからには、その子がいつか花開く日が来るであろうことを心の支えにして、あきらめずに指導するのだ。
(途中で投げ出したくなったこともまあまあある。)
かけたお金や手間に対するリターンがあるかどうかはその子次第だし、それを期待してはいけない(というか、精神衛生上、大変よくない)と思う。そんなの親や教師にとっては運みたいなものである。
私自身、「大金をかけて育てたのに期待したほどには育たなかったわー」なんて親に思われている可能性も大いにある。そして、もし親から今そんなことを言われたら、「大谷翔平の娘じゃないんだから過剰な期待をするな」と言い返す。
(なんて憎たらしい子どもだろう。笑)
ごくまれに超優秀な子どももいる
私の通っていた教室に、いつもいろんなコンクールで一位を総なめにしていた憧れのお姉さんがいた。
バレエは中学~高校の年齢で身につけるものが非常に重要になってくるので、将来を見据えて中学受験をする子がとても多い。そしてそういう子はバレエを第一に考えているため、難関中学を狙うというよりは、エスカレーターで楽に高校に上がれることや、バレエ留学に理解があることなどを重視して学校を選ぶ。
でもその憧れのお姉さんは、バレエを辞めることなくちょっと回数を減らすだけで難関中に合格し、学内でもつねに成績トップらしいともっぱらの評判だった。
(どこから漏れてきた情報かは不明だが。笑)
将来はてっきりプロのダンサーになるんだと思っていたけれど、そのお姉さんは高2までバリバリレッスンして発表会で主役まで踊り、その直後にきっぱりとバレエを辞めていった。噂ではその後、医学部を経て医者になったそうな。
(その方のお父様は、その地域では有名なお医者さんだった。)
こんなふうに、勉学にも習い事にも大金をかけ、そのかけたお金以上のリターンがあることもごくまれにある。
そこまでではないにせよ、よく親御さんが危惧しているような、「バレエに命をかけていたから勉強のほうはさっぱりダメです~」なんて子はじつはあまりいなくて、バレエが上手な子は成績もいいことが多い。
自分の目標に向かって努力する姿勢は、バレエも勉強も同じで、やる子はどちらも本気でやる。バレエを通してそういう根性が身についているのだ。私の生徒さんにも早稲田を狙っていた子がいたが、その子は高1の終わりにいったんバレエをやめたものの、すぐに戻ってきてこう言った。
「バレエをやめて時間ができた割には勉強に手ごたえを感じない。私はレッスンしているほうが勉強がはかどるタイプかも」。
ずーっとバレエをやってきた子なので、身体を動かしてストレスを発散したいという単純な理由もあったと思う。でも、立派に育ったなぁと感慨深かった。「中間テスト前だから~」と言って気楽にレッスンを休む子に爪の垢を煎じて飲ませたい。笑
(そういう子が普段のレッスン時間の分、家でみっちり勉強しているかというと、そんなことはないものだ。なんならレッスン室に来て私の目の前で勉強してみろ。と言いたい。)
大金と手間暇をかけて育てていることが報われてほしい、と思うのは無謀な願いかもしれない
昨日の記事で、私も散々「親に感謝しろ」と述べたけれども、当事者である子どもにそれを言っても無駄なんだろうなー…と感じる。そんなのはかつての自分を顧みれば火を見るよりも明らかだ。
日々の自分の苦労を思うと、子どもの態度に徒労感を感じて腹が立つかもしれないけれど、腹を立ててもそれがさらなる徒労感を生むだけなので、もうそれなら心を無にして、せっせと自ら子どもの奴隷に成り下がる(決して奴隷なんかではないが)のが、精神衛生上はいいのかもしれない。
私は、大きくなった生徒さんたちを見ては、みんないい子に育ったなぁといつも思っていた。どの子も例外なく、それぞれにいろんなことがあったし、子どものほうはもちろん、時にはお母様が泣いて相談にいらっしゃることもあった。
でもみんなすごくいい子に育ってくれた。お母様たちがあんなにがんばっていたんだからいい子に育って当たり前なのだ。
今もバレエを続けている子とは交流があるのだけれど、その子たちはご両親に感謝している。面と向かって伝えられているかどうかはべつとして、私にはそう言ってくれる。きっと大人になったせいもあるのだろう。たぶん10代の時だったらそんなことは私にも絶対に言わない。笑
私も(気が向いたら)母に感謝の気持ちを言葉で伝えようと思う。