ふたり暮らし。お祭りで損得勘定。
15年以上ぶりのお祭り
毎年、7月の第1週の週末は成田山の祇園祭が行われている。以前住んでいた時から知ってはいたのだが、一度も行ったことがなかった。
私はうんと子どもの頃を除いてお祭りというものがあまり好きじゃないので、誘われない限りは自分から行こうと思ったことがない。夫も同じタイプで、交際していた頃はなんとなくふたりで行っていたものの、数年後に「じつはあんまり好きじゃない」ということをお互いにカミングアウトし、「なぁんだ。笑」となった過去がある。
そんな私たちなので、今年もお祭りには行かない予定だったのだが、仕事帰りの夫から珍しく「お祭り行かない?」というLINEがあり、駅で待ち合わせて行くことになった。夫曰く、「せっかく成田に住んでいるんだから、一度くらい行ってみようかな」と思ったそうだ。
駅に向かう道中からいつもと全然様子が違う。人がいーっぱい。駅に向かう道なんて、普段は疲れた顔をしている人しか歩いていないので、こういう楽しげな雰囲気はこちらの気分も明るくなる。まだ19時前で、小学生もたくさん歩いている。子どもたちだけで出歩ける日本の治安がこの先も守られますように…と、願わずにはいられない。
夏になると現れる人々
駅につくと、それはもう超うるさかった。成田ってこんなに人いるの!?と思うほどの人混みだ。そしてこんな言い方をするのはアレだが、普段はあまり見かけることのないガラの悪い人々が大量に湧いている。同じ人ごみでも、クリスマスマーケットとか初詣などにはここまでガラの悪い人はいないのに、お祭りになった途端にこんなにも客層が変わるのはなぜなんだろう?一体みんな冬はどこに…?
10代20代の若者が大騒ぎをしているのはしょうがない。誰もがみな、イタイ思い出を抱えて大人になっていくものだ。でも、いい歳ぶっこいたおっさんがイキってオラついているのはどうなんだろう。もうちょっとこう、大人の貫禄とか余裕みたいなものを醸し出せないものか。こんな中で交通整理やゴミ拾いをしてくださっている同年代の男性たちを見て、己を顧みたりはしないのだろうか。
そんなことを思いながら海老蔵時計の下にたどり着いた。夫とはここで待ち合わせしたのだ。
数分後、どこからともなく現れた夫は、もうすでに手にビールを持っていた。私はわかっている。「せっかく成田に住んでいるんだから云々」というのはただの口実で、夫は外でビールを飲みたかっただけなのだ。たとえすぐにぬるくなっちゃうような、プラカップに入った割高のビールであっても、こういう場で飲むビールはレストランのグラスビールよりおいしく感じるのだろう。
食べたいものに悩む
夫に「なに食べたい?」と訊かれ、私は考えこんでしまった。
子どもの頃は、「わたあめ!」「たこ焼き!」「焼きそば!」「かき氷!」と次々に食べたいものが浮かんできたのに、今は全然浮かばない。というか、浮かんできても損得勘定が頭をよぎる。「ざらめを膨らましたやつに1000円かぁ…」とか、「原料は水なのに600円て…」などと考えてしまうのだ。「焼きそばは家でよく食べるしなぁ。唐揚げはからあげクンのほうがおいしいし、たこ焼きは駅前のひっぱりダコのほうがおいしいよなぁ」などとぶつぶつ言っていたら、夫に「お祭りの食べ物は味じゃなくて雰囲気を楽しむんだよ」と言われてしまった。
たしかにそうだ!私ってばお祭りに来て損得勘定ばかりしちゃってもったいない。せっかく来たんだから楽しもう!と気を取り直し、唐揚げを買った。ひとつ食べて夫は「…うん。からあげクン食べたいね」と言った。手のひら返すの早すぎだろ。笑
しかも夫は財布を見て、「あ、現金があと1000円しかない」と言った。お祭りに誘っておいて現金を下ろしてないなんて、うっかりにもほどがある。言っとくけど私は手ぶらで来たので所持金はゼロだ。昨今の値上げの激しいお祭り会場で、1000円で買えるものは限られている。
夫は道路の反対側を見やり、「ケバブ食べない?」と提案してきた。そこにはいつも行くケバブ屋があり、キャッシュレスも使える。ケバブなんていつでも食べれるじゃん、と思いつつ、確実においしくて満足できることも知っているので、一も二もなく賛成した。
ケバブ屋ではいつもの陽気なお兄ちゃんが迎えてくれ、食べ終わってしゃべっているお客さんに声をかけて席を空けてくれた。テーブルの上もササッと拭いてくれ、「ゴミ箱ハココネ」とゴミの心配までしてくれる。すっかり日本人である。
食べながら、隣のテーブルの外国人客たちと店員のお兄ちゃんの会話を聞いていたら、見た目は同じ国の人たちのように見えたのに、みんな拙い日本語で会話をしていて意外だった。外国人たちの共通言語が日本語って不思議な感覚だ。
ひっぱりダコは今日もひっぱりダコ
帰りに駅を通ったら、駅前のひっぱりダコにすごい行列ができていた。目と鼻の先に屋台が立ち並んでいるというのにこれだ。みんな、素人が作る屋台のたこ焼きよりいつものひっぱりダコのほうがおいしいと知っているのだ。
私もたこ焼き食べたいなぁ…と思ったが、あの行列に並ぶ気力はない。食べようと思えばいつでも食べられるひっぱりダコ、お祭りが終わったら買いにこよう。