ふたり暮らし

明日は明日の風が吹く

「〜っぽい」の呪縛

ふたり暮らし。「〜っぽい」の呪縛。
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「ひとりっ子っぽい」は悪口?

私は昔、「きょうだいいる?」と訊かれることが嫌だった。いないと答えると次はほぼ必ず、「だと思った!」「あー、ひとりっ子っぽい」と言われるからだ。最近はそうでもないかもしれないが、ひと昔前までひとりっ子のイメージといえば、わがまま・マイペース・自分勝手・人のことを考えない…などなど、マイナスなイメージしかなかったと思う。

 

実際に私の母は、祖母から「女の子のひとりっ子は周りからいろいろ言われるから可哀想よ。きょうだい作ってあげなさい」と何度も言われたそうだ。祖母は優しくて穏やかで愛情深く、私のことをとても可愛がってくれていたのだが、そんな祖母ですら実の娘にそういうことを言ってしまうくらい、世間のひとりっ子に対する印象は良くなかったのだろう。

 

たしかに私はわがままでマイペースな子どもだった。分け合う相手も無理に合わせる相手も近くにいないので、基本的に自分勝手だし、何をするにも自分のことだけ考えていたと思う。それで友達に嫌な思いをさせてきたこともたくさんあっただろう。でも、大人になってから思ったことは、「子どもなんてみんなそんなもんじゃないか」ということだ。

 

わがままじゃなくてマイペースじゃなくて自分勝手じゃなくて人のことばっかり考えてるような子どもなんて見たことがない。そんなの子どもじゃない。人間というのはみんな利己的な生き物なのだ。大人になってもそのままだとヤバイ人だが、子どもならそれが普通だ。まだ人生経験の浅い子どもに向かってマイペースだのわがままだの言うのは、それを言う大人のほうが間違っている。

 

今は昔に比べてひとりっ子が多いだろうから、そういう価値観もいずれ淘汰されていくことだろう。いいことだ。

 

ポジティブ変換できるようになったきっかけ

私はずっと、ひとりっ子自体にコンプレックスを感じることはまったくないにも関わらず、人から「ひとりっ子っぽい」と言われるのはディスられていると感じてしまうという、矛盾した気持ちを抱えていた。

 

そのモヤモヤした気持ちを払拭してくれたのは、昔の生徒さんだ。生徒さんといっても私よりずっと歳上のとても上品な女性で、60過ぎてようやく憧れだったバレエを始めたのよ〜♪と、にこにこおっしゃる可愛いらしい人だった。

 

ある日、「先生、ごきょうだいはいらっしゃるの?」と訊かれ、私は無意識に身構えた。私はその方に対して、女性として・人生の先輩として憧れの気持ちを持っていたため、ひとりっ子と答えたら失望させてしまうのではないかと思ったのだ。
(そう思うこと自体が世の中のひとりっ子に対して失礼な話だが。)

 

でもその方は、「あらそうなの〜♪ だからかしら?先生が愛情深くていらっしゃるのは。きっとご両親にとっても大切にされてきたのでしょうねぇ♪」と言ってくださったのだ。

 

何十も歳上の女性から「愛情深い」と評価してもらえたことにも驚いたし、こんなふうにポジティブなことを言われたのも生まれて初めてだったので、表面上は冷静さを保っていたものの、内心は感激の嵐だった。その後の人生で現在に至るまで、この時の言葉を何度も何度も思い返しては、心の支えにしているくらいだ。

 

その方のおかげで、「ひとりっ子っぽい」というセリフには、ディスる気持ち以外のポジティブな意味もあるのかもしれない、と思えるようになった。

 

「〜っぽい」というのは大体当たっている

大人になった今、「長女(第一子)っぽい」「次女っぽい」「末っ子っぽい」など、「〜っぽい」と感じる印象は大体当たってるものだと感じている。そして「〜っぽい」と言われて嫌な気持ちになるのはひとりっ子だけじゃないのだとも知った。どの立場の人にもそれぞれポジティブなイメージもあればネガティブなイメージもある。

 

誤解を恐れずにいうと、自分がそうだからか、ひとりっ子の人ってとくにわかる。良くも悪くもなんかちょっと浮世離れしている。そしてたとえ気弱そうに見えたとしても、決して気弱じゃない。

 

バレエを教えていても、伸びるペースがゆっくりなのはひとりっ子の特長だった。他人と自分を比較しないのでなかなかこっちの思うように伸びていかないのだ。競争心がなく、欲もなく、焦るとか慌てるとかもなく、のんびりというと聞こえはいいが、ぶっちゃけやる気が見えにくい。私も散々先生方から「本気になれ」「欲を出せ」と言われ続けてきたが、その理由がようやく理解できた。なるほど、大人からはこう見えるのね、と。

 

逆に、とくに次女の子はわかりやすくやる気を感じられて、褒めても叱っても反応がダイレクトに返ってくるので教え甲斐があった。みんながみんな当てはまるわけではないが、きょうだい構成による傾向というのはたしかに存在する。ひとりっ子の子がレッスン中に他人事みたいな顔をしているのを見るたびに、「もう!だからひとりっ子は…!!」と自分を棚に上げて思っていた。
(すみません…)

 

とはいえ、上達の速度という点ではマイナス要素にはなるが、他人と自分を比べないところは、多くの場合ひとりっ子の長所と言える部分だろう。

 

美しい姉妹愛

きょうだいのいない私にとって、子どもたちから聞かされる兄弟姉妹の愚痴というのはなかなか対応に苦労した。姉妹で習ってる子も多く、お互いがお互いの悪口を私に言ってきたりすると下手なことも言えないし、妹はやたらとライバル心が強くて生意気だったりして、ついお姉ちゃんの肩を持ちたくなってしまうこともあった。もちろん態度には出さないが。

 

そんな中で、「ははあ〜。子どもはこうやって育てればいいのか」と、いつもその対応の素晴らしさを参考にしていたお母様がいたのだが、その娘たちのやり取りが毎回とても素敵だったのでよく覚えている。その一例がこれだ。

 

新しいレオタードを買うことになったお姉ちゃん。色とりどりの可愛いレオタードのカタログを見ながら、お母さんが「どれにする?」と訊いた。


姉「これ可愛い」
母「いいんじゃない?」 
姉「ん〜でも、◯◯(2歳下の妹)はこの色好きじゃないよね?」
妹「うん」
姉「◯◯はどれがいい?」
妹「これ!」
姉「こっちは?」
妹「ううん、これがいい」
姉「そっか〜(ちょっと残念そう)。じゃ、それにしよっか」
妹「……おねえちゃんはこれきらい?」
姉「嫌いじゃないよ。それにしよう」
妹「……やっぱこっちでもいいよ」
姉「ううん、◯◯の好きなのにしよう。ね!」

 

そばでお母様は口出しせずに見ているだけだった。姉は新しいのを着る代わりに、お下がりになってしまう妹に好きなものを選ばせるように言いきかせてきたのか、それともお互いがお互いを思いやっているうちに自然とこうなったのか。こういう微笑ましい場面を目にすると、「ああ、きょうだいがいるって羨ましいな」と素直に思った。