ふたり暮らし。ストレッチの極意。
急にストレッチを始めた夫
最近、夫がストレッチを始めた。毎回、泳いでいる途中で片足ずつ順番につるらしく、身体が硬いのが一因なんじゃないかと思ったらしい。
なんか手っ取り早く柔らかくなるようなストレッチない?と訊かれたので「そんなもんはない」と答えておいた。そんなもんがあったら子どもの頃の私がとっくに試している。毎日の積み重ね以外で柔らかくなる方法なんてないのだ。
夫の立ち姿を見ていると、腸腰筋と大腿四頭筋が硬いことがわかる。骨盤が前傾している、いわゆる反り腰というやつなのだ。立っている時に前傾している人は、座ると逆に後傾していることが多く、それにともなって巻き肩とストレートネックに悩まされていたりする。骨盤を支える筋肉が弱いのだろう。
人体の構造として、骨盤というのはフラットにしておかないと日常的なパフォーマンスが下がり、怪我もしやすくなる。私はスポーツにはまったく詳しくないが、少なくとも反り腰と座った時の寝腰が良くないのはどの分野でも同じだろうと思う。ストレッチがこむら返りに効くかどうかは知らないが、せっかく夫がやる気になっているのでこの機にしっかりストレッチしてもらおう!
というわけで、妻によるパーソナルスパルタレッスンが始まった。まずは片膝をついて、前の足に重心を移して後ろ脚に繋がる腸腰筋を伸ばす、というストレッチをやってもらう。一般的なストレッチとしてよく見るやつだ。
夫はこの時点で痛みに顔を歪めている。笑
夫に「力んじゃだめなんだよね?」と確認され、「うん」と答えたものの、それが一番難しいということはよくわかっている。痛いと力まずにはいられない。ストレッチは身体を脱力させることが大切なのだが、硬い部分を伸ばそうとすればするほど、身体に力が入ってしまう。そして身体に力が入れば入るほど、全身の筋肉がこわばってしまうので伸ばすのが痛い。悪循環である。
じゃあどうしたらいいのか?
これが小さい子ども相手なら、難しいことは言わずにただお手本を見せて教えていく。最初は痛くても、見様見真似しているうちに自然と柔らかくなっていく。
(もちろん、毎日の積み重ねの上で。)
でも大人の場合はただ闇雲にやっても痛みに顔を歪め続けるだけだ。それどころか無理をするとかえって身体を傷めてしまう。大人のいいところは、子どもと違って論理的な身体の仕組みを理解することができるところである。だからまずは身体の仕組みを知ることから始めよう。
鍵は丹田にある
丹田が大事、というのはいろいろなところで見聞きする。とくにヨガやスポーツをやっている人はよく聞くことだろう。バレエのレッスンでも、つねに丹田を意識することを訓練する。無意識のうちに丹田に力を集中させ、全身の無駄な力みを抜くことができるようになるまで、あらゆる動きを通してしつこくしつこく訓練していくのだ。
「丹田に力を入れるとそのほかの部位は脱力しやすい」というのが身体の仕組みのひとつである。なので、ストレッチはこの丹田に意識を集中させて行うことが近道となる。
人はつい、素早く・力強く動こうとすると、全身に力を込めて構えてしまう。でもほんとうはまったく逆で、素早く・力強く動くためには、丹田以外を脱力させておく必要があるのだ。身体というのは、必要な部位にだけつねに意識を集中させ、ほかの部位を脱力させておくことで高いパフォーマンスを発揮することができる。
宮本武蔵の肖像画が、素人目にはなんだかダラっと立っているように見えるのはこのためだ。あの脱力した立ち方は、相手のどんな動きにも即座に反応できるように、無駄な力の一切を抜いて集中している証拠なのだそう。武道に限らず、オリンピック選手などのトップアスリートほど、全身の筋肉を触るとふわふわと柔らかく、必要な時に必要な部位にだけ、サッと素早く力を入れることができるという。
力ませる筋肉は、身体を動かす時には逆に足枷となってしまう。「ボディビルダーの筋肉は使える筋肉じゃない」といわれているのもこれが理由だ。
丹田を意識するには
丹田丹田と言っているが、実際に身体の器官として存在するものではないため、非常にわかりにくい。一般的には、おへそから2〜3cm下、おへそと恥骨の中間部分に位置するといわれている。そして意識すべきはその位置から身体の中心(奥)に入ったところだ。丹田は文字通り自分の中心部分である。
とはいえ、いきなり手で触れない部分を意識しろと言われても難しい。なので私はよく、「膀胱を内側から引っ張って薄くするような意識で」と教えていた。膀胱を薄くしようとすると、自然と下腹に力が入る。その時に気をつけてほしいのは、ウエストやおへそを引っ込めないことだ。ここには力は入れない。
あくまでも意識するところは下腹の奥。そこを、息を吸わずに薄くする感覚だ。その感覚がつかめたら、それ以外の身体の力を抜く。たぶん、最初はこれだけでじんわり汗をかいてくると思う。
そのくり返しで徐々に丹田に意識を集中できるようになると、今度は尾てい骨周辺の「深層外旋六筋」という部分に意識をアクセスできるようになる。脚を外旋させる大切な筋肉で、バレエではとくに重要な部位なのだが、バレエと関係なくとも、ここを適度に使えるようにすることは正しい姿勢を保つのに重要になってくる。なぜなら、ここが正しく使えていないと脚が内旋してしまい、脚が内旋すると骨盤が前傾し、骨盤が前傾すると内転筋群が働きにくくなり、内転筋群が弱まるとO脚になってしまうからだ。腰痛の原因にもなる。
深層外旋六筋を意識すると、お尻の底になんだかムズムズした感覚を覚える。そのムズムズこそが、その筋肉にアクセスできるようになった証拠である。そこからどんどん神経を研ぎ澄ませ、深層外旋六筋の感覚を探れるようになると、ストレッチの理解度が深まる。丹田と深層外旋六筋に意識を集中させればその他の力を抜きやすくなり、身体の芯から伸ばすことができる。
ストレッチで痛みを感じる原因は、この芯の部分ではなく、表面的な部分ばかりを無理矢理引っ張って伸ばそうとするからなのである。
意識の持っていき方
ストレッチの効果は、表面的な動きやポーズを真似ることより、その意識の持っていき方で変わってくる。なのでほんとうは「ながらストレッチ」というのはあまり効果的じゃない。すでに柔らかい人が運動前のウォーミングアップのために行うストレッチならいいかもしれないが、身体を柔らかくしようと思って行うストレッチなら、自分の身体に全神経を集中させて取り組むべきである。
丹田に意識を集中させていると、もうそれだけでいっぱいいっぱいだと思うかもしれない。最初はそれでいい。そこから徐々に丹田以外の部位にも意識を移していく訓練をすれば、いずれ「丹田に20%、その他の部位に80%」というように、ストレッチしたい部分に意識を集中できるようになる。そうしていくうちに、日常生活のあらゆる動きの中でも丹田をうっすら意識できるようになり、立ち姿や歩き方、座った姿勢が変わってきたり、スポーツやダンスなどのパフォーマンスも上がりやすくなる。
残念なことに、無意識レベルで丹田を意識できるようになるには、およそ12歳頃までに訓練を積んでおかなければならないと言われている。なので、大人の場合は常に自分で気をつけて意識しておく必要があるのだが、意識し続けていれば、その感覚はだんだん無意識に近づいてくるとも言われている。日々の継続が大切だということだ。
まとめ
オタク的内容をずらずら書いてしまったが、もし全身の硬さに悩む人がいたら、少しでも参考になると嬉しい。
ストレッチする時にはどんなポーズの時であっても、
下腹(膀胱)を薄くして丹田に意識を置き、深層外旋六筋をムズムズさせ、その他の部位は脱力する。
これがコツであり、一番の近道である。ぜひお試しください。