ふたり暮らし。スキップスキップらんらんらん♪
スキップできた
ノリのいい外国人の動画で、何かに挑戦し続ける子どもをたまたまその場に居合わせた周囲の大人たちが見守り、子どもがついにそれを成功させると、その場の全員が「yeahーーーー!」と盛り上がって拍手喝采が起きる、というのを時々見かける。
この間それを空港で見た。
出発ロビーの広い通路で、女の子がママと両手を繋いでスキップっぽいことをやっている。たぶんまだ2歳くらいの小さい子だ。空いている時間帯だったとはいえ、スーツケースやカートを押して歩く人のいる場所なので、まあ正直「ここでやるなよ」とは思ったのだが、可愛らしかったので目で追っていた。
私が遠くから歩いて親子に近づいていく間に、女の子はママの手を離し、ひとりで全然できてないスキップをやり始めた。そのできてないスキップがあまりにも可愛すぎて思わず頬がゆるんだ。通り過ぎる人たちも「あら〜可愛いわねぇ♡」みたいな感じで見ている。
私が親子の横を通り過ぎた時、背後で「yeahーーーー!」という歓声がしたので振り返ると、ママと通りがかりの数名の大人たちが女の子に向かって拍手していた。きっとスキップが上手にできたのだろう。残念ながら私は完成系を見ることができなかったが、一気にその場のアイドルになった女の子は、輪の中できゃっきゃきゃっきゃしていた。近くにいた空港職員たちも拍手している。
出勤前にいいものを見せてもらった。
できないスキップ
たまにスキップができない大人もいると聞く。誰でも一度くらいどこかでやっているものだと思っていたが、大人になるまでやったことのない人もいるらしい。かといって大人になってからわざわざ練習するようなもんでもないので、できない人はできないままなのかもしれない。
バレエのレッスンでスキップは基本中の基本だ。幼児クラスではもちろんのこと、低学年〜中学年クラスでもスキップをレッスンに組み込む。リズム感を養ったり、対空時間を伸ばして「浮く」感覚をつかんだりするのに、スキップは最適な訓練なのだ。それまで眠たそうにしていた子でもスキップで一気にテンションが上がるので、教師にとってもありがたい項目である。
幼児クラスではスキップができない子もめずらしくなかった。それを気にする親御さんも多くて、「家でどんな練習をしたらいいですか?」とよく訊かれた。3歳になりたての子と、年中さん・年長さんとでは能力に差があって当たり前だし、スキップなんてどうせいつかできるようになるのだが、やはり我が子ができてないと気になるのだろう。周りのみんなに迷惑なんじゃ…と思ってしまうのかもしれない。
私も教師になるまではスキップの練習にやり方なんてあるの?と思っていたのだが、幼児向けのカリキュラムには、なんと「音に合わせて歩く」から始まり、「ケンケンパ」「ケンケン」「スキップ」「ギャロップ」「裏表ギャロップ」「ギャロップケンケン」と細かく項目分けがされており、段階を踏んで複雑なステップが踏めるように練習するメソッドもあるのだ。
家で練習させたいというママの気持ちを無視するわけにもいかないので、「両手をつないでケンケンからやってみてください」とアドバイスしていたのだが、胸中は複雑だった。
なぜなら、できないスキップは貴重だからだ。
一度スキップができるようになると、もうできないスキップは見られなくなる。小さい子のできてないスキップほど可愛いもんはない。全然できてないのに、ママや周囲の大人たちに「わー!じょうずじょうずー!」とおだてられて本人がドヤ顔になっているのも超可愛い。発表会だってもうこれでいいじゃん、とすら思う。
そんな私たち教師の思いとは裏腹に、振り付け開始当初はスキップができなかったのに、本番までにはできるようになってしまう子が多く、表向きはたくさん褒めていたが、内心では「できるようになっちゃったかぁ…」と思っていた。嬉しいような寂しいような、寂しいような寂しいような。笑
でもまれにスキップできないまま本番を迎える子もいたりして、そういう子は本番で観客の視線をかっさらっていた。できてないのに拍手が巻き起こるなんて、この年齢でしかありえない。幼児さんの特権である。
お姉さんたちも大好き
高学年以降ではスキップをやる機会はグッと減るが、とはいえまだ「子役」という扱いの年齢なので、演目によってはスキップさせることもある。
中高生ともなるとさすがにやらなくなる。しかし、みんなスキップは大好きだ。たまにお遊びでやらせたりすると、みんな大はしゃぎでやってくれた。ドタドタした子どものスキップではなく、つま先までピシッと伸びた、もはやスキップとは呼べないような軽やかなステップだ。さすがだなぁと思うと同時に、小さい頃と変わらぬ笑顔で超楽しそうにスキップする様子に、「スキップの威力すげぇ…!」と思っていた。
中高生どころか、いい歳した私もスキップは大好きだ。小さい子を教えながら一緒にやるスキップはとても楽しかった。大人になってからあんなにスキップをする職業は他にないかもしれない。その機会のなくなった今、それがじつはとても寂しい。笑