ふたり暮らし。大人の仮病。
36.9℃で病人
夫が風邪をひいた。数日前からのどが痛いと言っていたので、マヌカハニー舐めろ、夜更かしするな、深酒するな、ラーメン食べるなと言っておいたのに、それらすべての言うことをきかなかった夫。朝から咳をしながら出勤していき、午後早くに早退してきた。
その日私は寝具類を洗濯し、窓のサッシと換気扇掃除をし、寝室のクローゼットの見直しをしようと思い、朝から忙しく家事をしていた。そこへいきなり夫が帰ってきたため、予定が大幅に狂ってしまった。
夫は帰宅するなりゲッホゲッホと咳をしてしんどそうにベッドに直行。そこらへんにスーツを脱ぎ捨て、新しく取り替えたばかりのシーツに靴下のままもぐり込んだので慌てて脱がした。熱を計ると36.9℃。微熱にもほどがあると思ったが、しんどいそうだ。ほんとうに?男性というのはなんでこんなに弱いのだろうか。実家の父も37℃で大騒ぎしていたことを思い出す。私なら普通に問題なく生活できる体温だ。
以前も書いたが、我が家ではどちらかが具合が悪い時は相手のことを最優先に考えるという暗黙の了解がある。私もちょっと前に風邪をひいて夫の手を煩わせたので今度はお返しする番なのだが、私の言うことを聞かずに免疫力が下がる行為ばっかした挙句、36.9℃しかない夫に優しい気持ちで接しろというのも無理な話である。
咳がうるさいのでいつもは開け放している寝室の引き戸を閉め、隔離した。夫は子どもの頃喘息を持っていたらしく気管支が弱いので、こういう咳をし始めると長引く。寝室からは夫の咳の音とともに、体温計のピロリロピロリロいう音が聞こえてきた。
(何度計っても変わらないって。笑)
妻に仮病は通用しない
翌朝、寝室からのっそり出てきた夫は、「なんかまだだるいなぁ…ゲッホゲッホ」とわざとらしく咳をした。私が「熱は?」と訊くと、「熱とだるさって必ずしも比例しないよね」などと言う。つまりないのね?
サボりたいならサボればいいと私は思う。毎日まじめに働いているんだし、大人だってたまにサボることぐらいは許されていいはずだ。だから夫が会社をサボること自体はべつにいいのだが、私に仮病を使うことは許されない。元気ならマットレスを立てたいのでベッドから出てほしいし、私が掃除をし始めたら邪魔にならないところにそのつど移動してほしい。「具合悪いから◯◯食べたい」みたいなわがままも聞き入れられない。とにかく私の家事と勉強の邪魔をしないでくれ。
とりあえずうるさい夫の咳を和らげるべく、私が愛用しているプロポリスキャンディを与えた。これは咳にもよく効くのだ。夫は「アメぐらいじゃおさまらないよ」と言っていたが、なめている間は明らかに咳が激減していた。咳がおさまったところで、夫は会社に電話をかけた。わざとらしく所々に咳を挟みながら。笑
無事に自由な1日をゲットした夫は、さっそく嬉々としてパソコンに向かった。平日の朝っぱらからオンラインゲームしてる人なんていないんじゃない?と思われるかもしれないが、これがけっこういるのだ。8時くらいまでは夜の続きでそのまま起きている人がいて、9時以降になると子どもや夫を送り出した主婦たちがインしてくるのである。私もドラ10をやっていた時は平日でも休日でも遊ぶ相手には事欠かなかった。
私はゲーム中の夫を遠慮なく移動させながら掃除をし、その後は夫がゲームをしている横で真面目に勉強した。そうこうするうちにお昼になったので、納豆ご飯を用意した。夫は不満そうに、「えーー納豆ごはんーー?」と言っていたが、病人でもない夫のために特別な食事を用意する気はないし、「ゲームしながら片手で食べられるごはん」を用意する気もない。それどころか、いつも通りならふたりともお昼もプロテインである。それが今日はちゃんとごはんなのだ。豪華じゃないか。
質素な食事を終え、午後は私の自由時間だ。ほぼゲームみたいな単語アプリをポチポチしながら、ピカピカに吹き上げた床でゴロゴロし、飽きたら本を読み、おやつにホットケーキを焼く。
(ホットケーキはちゃんと夫のぶんも作ってあげた。)
日が暮れたのでお散歩がてら買い物に行こうと夫を誘ったが、「万が一誰かに見られたらマズイから行かない」と言われてしまった。こんな地元のスーパーに夫の会社の人間がいるとも思えないが、まあしょうがないか。夫がビールを買ってきてほしいと思っているのは明らかだが、それには気づかないふりをしていつも通りの買い物を済ませて帰宅。いつも通りの夕ごはんを作った。
それぞれの子ども時代
夫は子どもの頃、風邪で学校を休むと、1階の和室に寝かされ続け、トイレ以外は部屋から出してもらえなかったのだそう。熱が下がったあとでも漫画もゲームボーイも布団に持ち込むことが許されず、退屈でしょうがなかったという。だから風邪をひかないようにすごく気をつけていたし、仮病で学校を休もうと思ったことなんてないのだそうだ。
…私と大違いである。
私のうちは母も働きに出ていたので、学校を休んだ日は自由天国だった。自分の部屋で寝ていたので本も漫画も読み放題だったし、リビングのこたつでテレビを観ながらおやつを食べたり、わんこと戯れたりしていた。学校が近かったのでチャイムの音が聞こえ、「ああ今は◯時間目だな。みんなつまんない算数やってるんだ」とか、「20分休みか。寒い校庭で縄跳び練習させられているんだな」などと想像しては、「風邪って最高!」と思っていた。
ほとんど治りかけたあとも、「まだ頭が痛い」「お腹が痛い」と言ってはズルズルと長引かせていた。当然母は仮病だと気づいていただろうが、私がこのままサボり続けるかもしれないという心配がなかったので、叱られたりはしなかった。なぜなら、学校を休んだ日はバレエに行けないからだ。学校と違ってバレエは休んだぶんだけ遅れを取る。低学年のうちは週2回だったレッスンも徐々に回数が増え、年齢が上がるにつれて、インフルエンザにでもならない限り絶対に学校を休まなくなっていった。
パートのメリット
今の私はシフト勤務なので自分で休みを決められる。「先月けっこうがんばったから今月は多めに休みを取ろう」などと自由がきき、そこがパートの最大のメリットである。夫みたいに、たった1日休みを取るためにわざわざ(?)風邪をひいたり、具合が悪いふりをしながら会社に電話をしたりしなくてもいいのだ。夫はけっこうだらしないタイプなのに、そのだらしない夫を毎日規則正しく起こし、出社させる会社という存在は、親や妻なんかよりもよっぽど強いのだな、と思う。
1日自由を楽しんだ夫は、夜になって「さすがに明日は行かなきゃマズイよなー」とつぶやき、せつなそうな顔でカレンダーを見ていた。次の休日までの日数を数えていたのだろう。「明日は葉月ちゃん、仕事は?」と訊かれたので「休みだよ」と答えた。私は最近AとBのシフトをまとめているため、週2しか働いていない。夫は「…いいなー」と心底羨ましそうに言った。
(なんかすみません、いつも感謝しております。)
できることなら私ももっとシフトを増やしたいが、130万を超えると収入が増えたぶん以上に取られるものが増えちゃうんだから仕方ない。パートで働く以上は扶養範囲内に収めるのが鉄則だ。とはいえ、毎日真面目に働いてくれる夫にもっと感謝しなければ、とちょっと反省した。
次は夫の仮病もちゃんと労わってあげよう。