ふたり暮らし。バレエ「ドラゴンクエスト」。
「ドラクエ交響曲はバレエ音楽だ」
多くのドラクエファンと同じく、私もドラクエの音楽が大好きだ。ファミコン時代はたった3音しか出せなかったにも関わらず、最初からすべての楽曲をドラクエ交響曲としてオーケストラ用に作曲したというのだからすごい。
意外に思われる方も多いかもしれないが、「ドラクエ交響曲はバレエ音楽だ」というのは、すぎやまこういちさんの言葉である。
(余談だが、すぎやまこういちさんは小さい子向けのバレエ組曲も作曲していらっしゃる。)
その言葉の通り、バレエを習っている人があの音楽を聴くと、 たとえドラクエをプレイしたことがない人であっても、「王宮の場面?」「酒場の踊り子?」「城下町の曲?」など、その曲が使われている場面を当てることができる。脳内でバレエ作品を作れてしまうほど、ドラクエ交響曲はほぼバレエ音楽なのである。
そんなドラクエ音楽。これをバレエ作品にしたいと考える人がいても不思議はない。初代ソフト発売から約10年後の1995年、スターダンサーズバレエ団によって、バレエ「ドラゴンクエスト」が誕生した。もちろん音楽はあのドラクエの音楽そのままだ。すぎやまこういちさんによる書き下ろしも加わり、大人から子どもまで、バレエをまったく知らない人でも楽しめる作品となっている。
ドラゴンクエスト2025
スターダンサーズバレエ団「ドラゴンクエスト」は、今年で30周年という節目を迎える。昨年は行きそびれてしまったが、今年は発売と同時にチケットを取った。ドラクエ大好きな夫も毎回ウキウキしながらついてくる。
会場には他の演目の時よりも男の子の姿が目立つ。息子にバレエをやらせたいお母さんがここぞとばかりに連れてくるのだろう。たしかに男の子に「バレエかっこいい!僕もやりたい!」と思わせるのにこれ以上適切な作品はないと思われる。「少しでも多くの子どもたちに観てほしい」というバレエ団の意向から、年齢制限も低めに設定されており、上演時間も2時間程度と短め。小さな子でも飽きることなく最後まで楽しめるだろう。
開演前の、オケボックスからチューニングの音が聴こえてくるあの時間が私は大好きで、「早く始まって〜!」という気持ちと、「もう少しこの時間を味わっていたい」という気持ちとのせめぎ合いで、そわそわそわそわしてしまう。緊張感と高揚感が会場全体を包み、その場にいる全員が期待で胸をふくらませているのを感じる。
やがてチューニングの音が止み、会場内の明かりがフェードアウトしていく。そこへ大きな拍手とともに指揮者が登場し、いよいよ開演に向けて心臓が高鳴り始める。自分が踊るわけじゃないのに幕が上がる前はなぜかとても緊張してしまい、指先が震える。開演間際の胸が高鳴るこの瞬間が、もしかしたら1番好きな瞬間かもしれない。
ああ、想像しただけでゾクゾクしてしまう。しかも聴こえてくるのはあのドラクエの曲なのだ。白鳥の湖を観るのとはまた全然違うゾクゾク感である。「さあ、冒険が始まるぞ…!」というドキドキワクワクした気持ち。子どもの頃の、ドラクエの新作を初めてプレイする時の気持ちとほぼ同じといっていい。これは子どもにはたまらない瞬間だろうなと思う。
バレエなんてガラじゃない?
たぶん私の勝手な予想だが、この舞台を観にくる人で「バレエやってます!」とか「バレエが大好きです!」という人はほかの演目の時より少ないと思う。バレエだけが好きというよりも、ミュージカルなども含めた演劇ファンのほうが多そうである。
ちなみにストーリーは完全オリジナルではあるが、登場人物を見ただけで想像がついてしまうという、よくある王道ストーリーだ。バレエ作品はストーリーが複雑なものもあったりする中で、この作品は非常にわかりやすく、音楽と踊りに思う存分集中できる。そういった意味でも、バレエを初めて観る人におすすめである。
ドラクエの曲をただのゲーム音楽と思っていた人がドラクエオーケストラを聴いて感動し、その延長でバレエも観に行って来た!という人の話も聞いたことがある。バレエなんてガラじゃないしな…と思っている人にこそ、ぜひ観に行ってほしい作品なのだ。
今年の上演は8月23日と24日。まだまだ先のことだがもう待ちきれない思いだ。ご興味のある方はぜひ!チケットはお早めに。