ふたり暮らし。溝掃除で整う。
掃除機のない家
わが家には掃除機がない。同棲を始める直前に夫が持っていた掃除機が壊れ、一緒に暮らし始めたらふたりで新しいのを買いに行こう、なんて言っているうちに約20年もそのまま来てしまった。
お恥ずかしながら、昔はきったない部屋に住んでいても全然平気だったのであまり必要性を感じていなかった。今はキレイ好きになったが、そうするとますます必要性を感じなくなった。毎日雑巾掛けをしていると掃除機の出番がないからだ。
今の家もその前の家も引き戸で区切るタイプの1LDKなので、床には引き戸用の溝がある。ちょっと変態チックだが、この溝の掃除が私は大好きで、以前、床に這いつくばって無心で溝掃除をしている姿を見た夫が「…ハンディクリーナー買ってこようか?」とちょっと引いて訊いてきた。なんで?楽しんでやっているのに!と言うと、「なんか惨めに見えたから…」と言われてしまった。
夫は知らないのだ。私が普段、床に這いつくばって夫のデスク下を拭いていることを。デスク下どころか、家中の端っこや隅っこは手で拭かないと掃除が行き届かないので、ワイパーに雑巾をつけてザーッと全体を拭いたあとは手拭きしている。夫が言うには、この便利な世の中で、床に這いつくばって掃除をしている姿が惨めにしか見えないのだそうだ。
(ひどい。)
わかってないな、夫は。自分の手で掃除をすることの良さを。気持ちいいのに。とはいえ、惨め扱いされるのも気分が悪いので、以来私は夫のいる日はあまり掃除をしないようになった。
溝掃除はあえてたまにだけ
基本的に夫が仕事で家にいない日は毎日掃除をしているのだが、溝掃除は2週間に1回程度に留めている。詰まったホコリを掻き出すのが快感だからだ。
昨日がその日で、ようやく暖かくなってきたので窓を開け放ち、いつも通り床掃除をしたあとで歯ブラシ片手に溝と対峙した。歯ブラシで溝のゴミを一列ずつ掻き出していく。今の家の溝はけっこう深めなので、掻き出す感覚がはっきりわかって楽しい。こんなせまい溝でも、ホコリというのは気にせず入っていくようだ。「どうせ入るんならもっと広いところのほうがいい」とか思わないのだろうか。
カシュカシュカシュカシュカシュカシュカシュカシュ…
無心でホコリを掻き出していく。出てきたゴミはコロコロや濡れティッシュでそのつど回収し、一番はじまでたどり着いたら、爪楊枝でちょっと勢いをつけて掘り出し、小さく切ったコロコロテープですかさず受け止める。簡単そうに見えてけっこう難しいのだ。それでもどうしても溝に残ってしまう時は、コロコロテープを爪楊枝で隙間に押し込み、回収する。
我に返ることも
掃除中、「何やってんだろうな、自分。」と我に返ることもある。
掃除機なら一瞬で終わる作業を、わざわざ時間をかけて腰や肘を痛めながらやるなんて、そんな時間あるならサッサと英語の勉強でも始めれば?と自分でも思う。
でもこの時間がなんか妙に好きなのだ。というか、たぶん人類はみんな好きなんじゃないだろうか、溝のゴミ掘り。忙しかったりほかに優先してやることが多いからわざわざやらないだけで、ゴミの詰まった溝と歯ブラシを差し出されて、「ほかの家事はやっとくから、君は今から好きなだけコレを掘ってていいよ」と言われたら喜んでやると思う。
「サウナで整う」とはよく聞くが、溝掃除で私は整う。一種の瞑想のようなものかもしれない。溝掃除を終えると溝の中と同じくらい私自身もスッキリするし、その後の家事もいつもよりはかどるので、一石二鳥以上の効果がある。
家に溝のある方はぜひ試してみてほしい。