ふたり暮らし。カリスマの毒舌。
毒舌パートリーダー
職場AのパートリーダーTさんはとても毒舌だ。
ハゲを気にしている店長がTさんからの業務上の頼み事を忘れていたりすると、「次忘れたらそのハゲに直接メモ貼ってやるから!」と言い捨て、大学生の男の子が寝坊して遅刻してきたりすれば、「遅刻してきたぶん倍速で動いてよ?モタモタしてたら後ろから蹴ってやる」と脅す。はたから見てたらそりゃもう超怖い。
外国人観光客は周辺で買った飲食物を飲み食いしながら店に入ってこようとする人が多く、普通は口頭で一応丁寧に「お願い」という形でお断りするのだが、Tさんは持ち込み禁止の張り紙がしてある壁をバンバンバンバン!と叩き、「ほらこれ!読めないの?」と真顔で威圧している。
Tさんのすごいところは、こんなふうにキツイ毒を吐いた次の瞬間にはもう、普通の状態に戻っているということだ。今の今まで真顔でブチ切れていたはずなのに、その直後にはもうケロッとした顔で笑いながら話している。最初の頃はこのギャップに慣れなくて戸惑った。
パートリーダーという立場上、学生を指導することも多いTさんだが、その教え方はとても優しい。でも相手がその優しさに甘え、何度も同じミスをくり返すと容赦なくブチ切れるので、ちゃんと恐れられている。優しくて厳しいTさんは、店長よりもよっぽどみんなに慕われているのだ。
店長にも容赦ない
うちの店長は見た目はゴツいのだが、中身は豆腐だ。店長と長い付き合いだというエリアマネージャーも、「こいつは昇格試験の成績だけで店長になったやつだから、適性はないよ。みんなが面倒見てくれるからここまでやってこれたんだ」と言っていて、店長のポンコツぶりは社内でも有名らしかった。店長は今の店舗に赴任してきてまだ1年足らずとのことで、じつは私とあんまり変わらないのだが、この短い期間だけでも数々のポンコツ伝説を作り上げている。
以前、昼間っからお酒を飲んで酔っ払った外国人にバイトの女の子が絡まれ、困った顔で助けを求めているその子をヘラヘラしながら見ていた店長。それを見たTさんは本当に蹴り(もちろん軽く)を入れて言った。「さっさと助けてこいよ!トッポジージョ!!」。ちなみにトッポジージョとは、店長が「なんか似てるってよく言われるんだよね…」と気にしている悪口だ。
今ではもう、そういうシチュエーションの時にはサッと対応してくれるようになった店長だが、店長のその屈強な見た目は特定の界隈では逆に気に入られやすいようで、店長自身が絡まれているのもたまに目撃する。でもそれは誰も助けない。笑
カリスマは猫をかぶらない
私は職場で思いっきり猫をかぶっている。ブログではこんなんだが、普段は誰に対しても感じのいい人でいられるようにかなり気を使っているし、自分の意見はあまり言わないようにしている。学生時代に友人に言われて嫌な気持ちになっていた「八方美人」という言葉も、最近は表面的な人間関係には都合がいいとすら思うようになった。
もともと穏やかな性格の人ならいいが、私のように気の強いタイプは猫をかぶらないと無用なトラブルを生む。もう学生時代のようにぶつかりながら絆を強くしていくような人間関係は作れないので、言いたいことや主張があっても黙っているのが得策なのだ。
でも稀に、Tさんのように猫をかぶらずに生きている人もいる。もしかしたらTさんなりに多少はかぶっているのかもしれないが、少なくとも言いたいことはあまり我慢せずに言っていると思う。
言いたいことをすぐに言う人というのは、それによって「なにあの人。やな感じ」と思われてしまう人と、「裏表がなくて付き合いやすい」と思われる人に分かれる。Tさんは後者だ。なにが違うのかわからない。雰囲気?言い方?よくわからないが、まあ言ってしまえばそれがカリスマ性ということなのかもしれない。
バレエの恩師もそうだった。デブとかブタとかみっともないとかそんな醜い踊り教えた覚えはないとか、文字に起こすと相当ひどいことばかり言われ続けたが、それでも生徒たちに慕われていた。怖いから言うことを聞いていたというだけじゃない。先生のことが好きだったから、みんな一生懸命ついていったのだ。
カリスマ性って、持って生まれた才能だと思う。後から真似して身につけられるようなもんじゃない。Tさんが毒舌をかますのを見るのが、職場Aでのひそかな楽しみだ。