ふたり暮らし。親孝行。
実家突撃訪問
ちょっと前の話になるが、急な思いつきで旅行に行き、その帰りに実家に寄った。新幹線での旅行だったので実家に立ち寄るのは面倒だな〜と思ったが、この機を逃すと今年はもう行かないだろうなと思ったので、急遽途中で降りることにした。
実家への道々で母に電話をかけたがつながらず。いつもそうなのだ。母はどうでもいい用事でしょっちゅう電話をしてくるくせに、こっちが急用でかけると大体つかまらない。いつものことなので、今から行くとだけLINEしてそのまま突撃訪問することにした。
実家に行くと、両親は留守だった。父までいないのは珍しい。まあ、わんこにお留守番させているということはすぐに帰ってくるつもりなのだろう。私の突然の訪問に嬉ションしそうな勢いのわんこと遊びながら、中で待つことにした。いいお天気だったのでほんとはお散歩に連れて行ってあげたかったが、両親が帰ってきた時にわんこがいないと大騒ぎになると思い、やめておいた。
両親は30分くらいで帰ってきた。ふたりでコストコに行っていたらしい。まさか私たちが来ているとは思わなかった母は、玄関で出迎えた私を見るなり、「◯◯くんと何かあったの!?」と夫婦の危機を心配し、すぐに夫の靴があるのに気づいて安心していた。「急にいたらびっくりするじゃない。電話してよ」と小言を言われながら、車のトランクから荷物を降ろすのを手伝う。父はすぐに「どうせママが携帯見てなかっただけだろ」とわかってくれた。笑
かくしてリビングに運び込まれたコストコの戦利品たち。その量の多さに、私も夫も無言になった。
その日に私たちが訪れることは知らなかったはずなのに、私たちが2泊3日食べまくっても大丈夫そうな大量の食品と、今オイルショックが来ても1ヶ月は余裕で大丈夫だろうというくらいのペーパー類たち。そして、これ以上この家のどこに飾るのよ!?と問い詰めたくなるような、クリスマスグッズの数々。
トイレットペーパーを納戸にしまおうとしたら、案の定まだ在庫がある。「まだこんなにあるじゃん」と母に言うと、「だって行った時に買わないと。すぐに行ける場所じゃないから」と予想通りの答えが返ってきた。トイレットペーパーなんて最悪その辺のコンビニでも買えるし、すぐに行ける場所じゃないと言う割にはしょっちゅう行っているじゃないか。
買ってきたものを片付けてリビングに戻ると、父と夫はすでに飲み始めていた。テーブルの上には「今日はなんのお祝いですか?」と訊きたくなるような豪華なオードブルたち。もう一度言うが、両親はその日私たちが訪れることを知らなかったはずである。夫婦ふたりで食べる量じゃない。私たちが来る予感がしたというのなら、おそろしく勘が冴えているからすぐに宝くじを買いに行ったほうがいい。
歳月は進んでいる
まだ14時前だったが、食事会が始まった。酒豪だった父は、最近めっきりお酒の量が減った。減ったとは言っても普通の人と同じくらいは飲む。でも、まったく顔色を変えず水のようにスイスイと日本酒を飲んでいた父を覚えている私は、ビール2本で顔を赤くしている父を見て、「歳をとったなぁ」と感じていた。
母を見ると、昔から小柄だったが最近さらに小柄になったような気がする。ちょこちょことキッチンを動き回る姿は昔と変わらないが、ひとつひとつの動きに慎重さを感じるようになった。口だけは相変わらず憎たらしいが、母も確実に老いているんだなぁと急に寂しくなってしまった。
親孝行 したい時には 親はなし
食事の途中、急に親孝行したくなった私は「なんか手伝ってほしいことある?」と訊いてみた。父は「とくに無い」と言い、母はここぞとばかりに、庭の草むしりと2階の窓拭きと換気扇掃除と布団をコインランドリーに持って行くことを頼んできた。…図々しいな。
夫が換気扇掃除をしてくれると言うので、私は母と一緒にコインランドリーに行き、まわしている間に戻って庭の草むしりを始めた。庭から家の中を見ると、夫と父がビール片手にくだらないこと(たぶん)で笑いながら換気扇を分解しているのが見える。昔から時々、父は息子が欲しかったのかもしれないなぁと思うことがあったが、義理とはいえ、こんないい息子を連れてきた私に感謝してほしい。笑
庭は相変わらず鉢植えが多い。きっと父がまめに手入れしているのだろう(母は増やすだけだから)。母は草むしりをしながら、ずっと誰かの話をしている。ふんふんと聞きながら草を抜き続ける。ふと見ると、愛犬がおとなしく日向ぼっこをしていた。昔は庭に出すと大はしゃぎで走り回っていたが、今はちょっとうろうろしただけで寝そべってしまった。愛犬も歳をとったのだ。
(それか、庭に飽きているだけかもしれない。)
日が落ち始めたので、私はわんこを連れて先に出かけ、後からそのまま母とコインランドリーで合流することにした。わんこの足取りはまだまだ軽いが、昔ほど色々なものに興味を示さなくなった。猫ちゃんがいても素通りだ。途中、同じように愛犬とお散歩中の方とすれ違い、挨拶された。近所の人か、あるいはわんこの犬友か。こちらも挨拶を返し、母の待つコインランドリーに向かった。
帰りの電車で
その後、なんだかんだで実家を後にしたのは20時だった。帰り際、いらないと言っているのに母がコストコの戦利品を持たそうとしてきていつものように押し問答になった。「パパとふたりじゃ多いから!」と母は言うが、じゃあそんなに買うな!という話である。見かねた夫が「ありがたくいただきます」と言い、結局大きな保冷バッグと紙袋が帰りの荷物に加わった。いつもそうなのだ。だれも母には敵わない。
帰りの電車の中で私は夫にお礼を言い、「お義母さんは何か手伝うこととかないのかな?」と訊いた。夫は、「ないでしょ。あの人は干渉されないことが一番の喜びだから」と。そうだった。義母は誰かに干渉されたり時間をとられたりすることをすごく嫌う。一番の親孝行は「元気で音沙汰なくいること」だ。息子夫婦の自己満の親孝行なんて冗談じゃないと言われそうである。
旅行鞄よりも大荷物になった母からのお土産を見ながら、母と義母、正反対のふたりの顔をしみじみ思い浮かべた帰路であった。