ふたり暮らし

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舞台はやっぱり素晴らしい!

ふたり暮らし。舞台はやっぱり素晴らしい!
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久しぶりの舞台裏

先週末、友人のバレエ教室の発表会があり、2日間お手伝いに行って来た。

 

バレエ仲間の発表会のお手伝いというのはこれまでにも経験してきたが、自分が主催者でなくとも裏方仕事というのは本当に大変だと毎回感じる。主催者である教師にとっては、生徒たちにはもちろんのこと、監督や保護者や会館職員など、つねに色んな人に探され、呼び出され続ける2日間だ。身体がひとつじゃ足りないくらいに忙しい。

 

自分が教師だった時は、「もー!!みんなそんなすぐに私を呼ばないでよ!」と心の中で思っていたくせに、自分が教師じゃない立場になると、過去の自分を棚に上げ、ちょっとしたことですぐに友人を呼ぶ。笑

 

それぐらい、発表会の舞台裏というのはトラブルだらけなのである。

 

今回(というか毎回だが)主にお手伝いしたのは、小学生たちのメイクとウォームアップ、衣装の最終補正、ブロマイド撮影のポーズ指導だ。中学生以上になるとメイクもウォームアップも自分でやるようになるが、小学生はまだできない子が多い。そして子どもたちだけでなく、付き添いの保護者までもが遠足気分で騒ぎ出しちゃったりもするので、それらを抑えることも大切な仕事だ。

 

ブロマイド撮影

個人のブロマイド撮影があるかどうかは、そのお教室の方針によって違うが、私も友人もこれは外せないという考えで一致している。

 

時間もかかるし大変面倒なので、教師としてはぶっちゃけやらないほうが断然楽なのだが、舞台写真に必ずいい写りのものがあるとは限らないし、とくにソロを踊る機会のない子にとっては、ひとりで写るブロマイド写真はとてもいい思い出になる。時間や予算の都合上、舞台上で撮る集合写真を諦めてでも、個人のブロマイドは撮ってあげたい。

 

ブロマイド撮影でもっとも大変なのは、カメラマンと教師側とで意見の相違が出てくるところだ。プロの舞台ではないので、カメラマンはバレエ専門カメラマンなどではもちろんなく、バレエのことはよくわからないという人が多い。するとどうなるかというと、顔の角度で揉めるのである。

 

普段、結婚式や証明写真などを撮影しているカメラマンは、「顎をひいて」と言う。でもバレエ的な美的感覚では「顎をあげて」ほしい。カメラマンはポーズ云々よりも、「目がパッチリ見えるように」「瞳の輝きがわかるように」ということに重きを置いているようで、とにかく顔写りを気にしている。

 

でもこっちとしては「バレエのポーズ」として美しくなければ意味がない。うんと小さい子ならともかく、少なくとも10歳以上の子はちゃんとバレエの写真を撮ってあげたいのだ。だから「顎はもっと上で!」「肩の角度はこれでお願いします!」「首の向きはこれでいいんです!」などと、1人撮るたびに要望を出さなくてはならない。

 

こちらの意見を尊重してくれる人なら全然問題ないが、カメラマンとしてのプライドからか、こっちの言うことを聞いてくれない人だったりすると最悪だ。過去に自分の発表会でそういうカメラマンに当たり、教師としては大変不本意なブロマイドができあがってしまったことがある。

 

まあ、可愛いお衣装を着てメイクしてにっこり写っているだけで、本人も親御さんもとても喜んでくれるからいいっちゃいいのだが、本来なら自分でしっかり美しいポーズが取れるはずの中高生まで素人くさいポーズで写っていて、「もしこれが自分なら、こんな写真いらない」とすら思った。

 

その経験があって以来、ブロマイド撮影は私にとってまさに戦場だ。自分の発表会だと自分が撮影に張り付く時間がなく、気の弱いアシスタントの先生に任せて不本意な結果になったが(アシスタントの先生は悪くない)、友人の発表会なら私は撮影に張り付いていられる。絶対にいい写真にしてみせる!と意気込んで撮影に臨んだ。

 

カメラマンと険悪ムード

残念なことに、今回のカメラマンはプライドが邪魔するタイプの人だった。そのため、撮影はお互いに神経を尖らせた状態で進行していき、非常に疲れた。よそのお教室の生徒さんということもあるので、こっちとしては絶対に変な写真にしたくない。たとえ今はその美しさがわからなくても、数年後上達した時にその写真を見て、「うわぁ…(恥)」とならないような写真にしてあげたいのだ。

 

私が横から口うるさく言うので、カメラマンは明らかに不機嫌になっていった。笑顔で写らせなければならないのに、大人ふたりがこれでは小さい子たちは引きつってしまう。仕方なく、小さい子の時は黙ることにし、カメラマンの指示通り「顎を引かせた証明写真風ブロマイド」を撮ってもらった。
(どんなんでも可愛いからいっか…)

 

でも大きい子の撮影では黙っていられない。私とカメラマンのプチ喧嘩を見て、生徒さんたちには苦笑いされてしまった。もう、私に撮影技術があるなら私が撮りたい!こっちにその技術がないのだからカメラマンを立ててあげなきゃいけないとは思うのだが、こっちも遊びじゃないので譲れない。私もカメラの勉強をしようかしらと、このお手伝いを引き受ける度に思う。

 

どうにか私の意見をゴリ押しし、全員の撮影を終えることができた。撮った写真の選別は後日友人の仕事となるが、きっと気に入ってもらえるだろう。発表会のお手伝いでは、いつもこのブロマイドについてとくに感謝してくれるので、私も神経をすり減らした甲斐がある。

 

晴れ姿を観たいのはみんな同じ

発表会当日の午前中は、衣装着用で本番前最後のリハーサルがあり、保護者にとってはこの上ない楽しみとなる。大きい子の保護者は係分担があるし、小さい子の保護者は楽屋で子どものお世話をしなければならないため、本番は客席で我が子の晴れ姿を見られないからだ。

 

フラッシュやシャッター音の関係で写真撮影は禁止だが、リハーサルの動画撮影を許可するかどうかはそのお教室の方針次第。友人も私も動画はオッケー派である。そのため、親御さんたちのほとんどがビデオカメラ持参でやってくる。我が子だけをアップで撮ることのできる唯一の機会、こっちもその動画を大切にしてあげたいとは思うのだが、リハーサルはリハーサルなので、教師の怒鳴り声はどうしても入ってしまう。そこは仕方ないとわかってほしい。いつか先生の怒鳴り声すら懐かしく思える日が来るはずだ。

 

本番前日のゲネプロ(予行演習)と、当日朝のリハーサル。この2つだけが、教師が客席から自分の生徒たちの踊りを観ることのできる機会でもある。本番の踊りを客席から観られないことに不満を言う保護者は多いが、保護者と同じかそれ以上に、教師自身も客席から子どもたちの晴れ姿を観たいと思っている。子どもたちの半年間の努力を近くで見て、一緒に苦労してきたその日々の成果を、一度でいいから舞台袖ではなく、正面から観てみたいと、私もずっと思っていた。叶うことはもちろんなかったが。

 

子どもたちの晴れ姿を観たいのは全員同じ。友人の生徒さんたちとはまったく関係のない私ですら、みんなが舞台で踊る姿を見て胸が熱くなる。バレエの舞台って本当に素晴らしいな、と改めて思う。そして、そんな素晴らしい舞台のお手伝いができるというのもまた、とても幸せなことである。

 

最初の頃は発表会運営に不満を言っていた親御さんたちも、回数を重ね、裏方仕事の達成感を味わうようになると、自分たちの手が娘の晴れ舞台を支えているのだと強く実感し、お疲れ様でしたと言い合いながら涙を流すようになる。

 

その光景を見るのもまた、バレエ教師をしていて良かったと思う瞬間である。ああ、舞台ってやっぱり素晴らしい!